人事ポリシーは“優しさ”ではない―選別と多様性のあいだにある経営判断―

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セレクションアンドバリエーションの平康慶浩です。

「人を大切にする会社でありたい」――そう語る経営者の方は多いと思います。
でも、私は人事コンサルタントとして多くの企業の中を見てきてこう感じています。

「人を大切にする」という言葉ほど、人を選ぶ言葉はない。

なぜなら「大切にする」とは、裏を返せば「誰をどう扱うか」を決めることだからです。
つまり、人事ポリシーとは――きれいごとではなく、“会社が人をどう測るか”という物差しの話なのです。


目次

人事ポリシーは「信念」ではなく「物差し」

経営理念が「理想」を語るものであるなら、人事ポリシーは「現実」を運用するための基準です。
そこには善悪ではなく、選択があります。

たとえば「挑戦する人を評価する」という方針。
聞こえはいいですが、同時に「慎重で安定志向な人は評価しない」という意味でもあります。
この構造を見ないまま「挑戦文化をつくろう」と声を上げると、組織の中には静かに傷つく人が生まれます。

つまり人事ポリシーは、誰かにとっては“救い”であり、誰かにとっては“壁”になる。
その現実から目をそらした瞬間、制度と人事ポリシーは矛盾することになってしまうのです。


セレクションとしての人事ポリシー

人事ポリシーは、経営資源としての“人”をどう活かすかという視点で見れば、セレクション(選別)の仕組みです。

  • 採用では「誰を仲間とするか」を決め、
  • 評価では「どの行動を正とするか」を決め、
  • 昇格では「誰に権限を託すか」を決める。

すべてが、会社という組織の「生存戦略」そのものです。
この選別の軸が曖昧なまま運用されると、社員は混乱します。

「なぜあの人が昇格したのか」「なぜ自分は評価されないのか」――その疑問が不信感へと変わる。
制度の納得性は、公平さではなく、一貫性から生まれます。

私自身も会社を経営する中で痛感します。
たとえば、ある社員が提案した制度案を採用するかどうか。能力だけでなく、どんな価値観を大切にしているかを見て判断します。
つまり、「何を優先するか」ではなく「何を優先しないか」こそが、ポリシーを形づくる。


セレクションの外にある「バリエーション」

一方で、会社は選別ばかりしていては成長しません。
選別の外に、バリエーション(多様性)の領域を設ける必要があります。

たとえば――

  • 成果や役割の遂行はセレクションの対象。
  • 価値観や働き方、キャリアの方向性はバリエーションとして尊重する。

ここで大切なのは、「どこで線を引かないか」を意図的に決めておくこと。
人事ポリシーを設計するというのは、「評価軸を増やすこと」ではなく、「評価しない自由を残すこと」でもあります。

評価・昇格・報酬――それぞれにセレクションとバリエーションの視点を持つことで、制度はぐっと立体的になります。


【採用】セレクション軸とバリエーション軸

採用は最も象徴的な“選別の場”です。
文化や役割へのフィットは厳密に見なければならない。
しかし、学歴・職種・年齢・キャリアの形――それらは「多様性の対象」として柔軟に扱うべきです。

採用面接で「この人とは価値観が合わない」と感じるとき、実際に違うのは価値観ではなく「コミュニケーションのスタイル」かもしれません。
その違いを“誤差”として受け止められるかどうかが、人事ポリシーの成熟度を決めます。


【評価】セレクション軸とバリエーション軸

成果と行動はセレクション軸で共通の基準を設けます。
しかし、プロセスやスタイル、取り組み方の違いはバリエーションとして尊重する。

評価者がよく陥るのは、「自分のやり方と違う人を低く見る」こと。
人事ポリシーの中に「違いを認める評価観」を明文化しておくことが、組織の成長に大きな影響を与えます。


【昇格】セレクション軸とバリエーション軸

昇格は、最も重いセレクションです。
「この役割を任せるに足るか」という判断には、責任感や視座、意思決定力といった明確な軸が必要。
しかし一方で、「昇格しない」という選択も尊重されるべきです。

マネジメント志向の強い人だけでなく、専門職として貢献する人も正当に評価される。
この“二軸の共存”が、多様性あるキャリアの前提になります。


人事ポリシーが生む“痛み”と“希望”

人事ポリシーを明文化すると、必ず痛みが生まれます。
「この会社は、こういう人を評価しない」という現実が、浮かび上がるからです。

でも、その痛みこそが健全な組織の証です。
誰にとっても優しい制度は、結局誰も守らない制度になる。
痛みを引き受けてでも価値を貫くことが、人事ポリシーの存在理由です。

そして、その痛みを越えた先に、希望が見えてきます。
「だからこそ、自分はこういう形で貢献できる」
「だからこそ、この会社で生きる意味がある」――そんな納得感が生まれる。

ポリシーとは、支配の道具ではなく、会社と個人を対等にするための約束事なのです。


誰を選ぶかではなく、誰を排除しないか

人事ポリシーを考えるとき、つい「誰を選ぶか」に意識が向きます。
しかし本当に問うべきは、「誰を排除しないか」です。

セレクションの軸を明確にしつつ、バリエーションを許容する。
これが、変化の激しい時代において「人を活かす仕組み」を成立させる唯一の方法です。

人事ポリシーとは、人を囲うための柵ではなく、多様な人が自分の立ち位置を見つけるための座標軸。
経営とは、その座標を描き続ける行為なのだと思います。


あとがき

私自身、「セレクションアンドバリエーション」という会社名を掲げてから、この言葉の重さを日々感じています。

セレクション=選ぶ勇気。
バリエーション=受け入れる覚悟。
どちらが欠けても、組織は歪みます。

だからこそ、人事ポリシーをつくるというのは、制度設計ではなく、経営の覚悟を言語化する行為なのです。

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