「役職定年」は、実は「思いやる心」でできている

平康慶浩です。

グロービス経営大学院のHRM授業に登壇する中で、たびたび議論に上がるテーマのひとつが「役職定年の是非」です。
50歳とか55歳とか58歳とかの年齢で役職から外す仕組みは、なんてひどいんだろう、という論調になりがち。

けれども役職定年の仕組みって、本当は優しい制度なんですよね。
相手のことを思いやるからこそ、できた仕組みなんです。

一定の年齢で一律に役職を外す――一見、冷たく見えます。
けれど現実の組織では、「成果で外す」ほうがはるかに人間関係を傷つけることが多い。
「年齢」という中立な軸に痛みを引き受けさせることで、人の尊厳と関係性を守っている。
それが日本の“今”における役職定年の本質だと、私は考えています。

目次

“成果で降ろす”ほうが、はるかに厳しい

「年齢で一律に降ろすなんておかしい。成果で判断すべきだ」。
もっともな意見に聞こえますが、現場で最も難しいのはまさに成果で外すことです。

経営者が部長とか課長に対して「あなたは成果が足りないので降格」と告げることを想像してみてください。
説明は制度的に正しくても、 その瞬間に関係は大きく損なわれ、周囲にも波紋が広がります。
日本の多くの職場では、役職が人格や尊厳と強く結び付いています。
だからこそ、誰かが誰かを外す決定は、個人間の亀裂にも直結します。

役職定年は「人を守る」制度である

冷たく見える制度ほど、内実は“やさしさ”でできている。

役職定年の本質は、人間関係に伴う痛みを仕組みが肩代わりする点にあります。
「年齢」という誰にも責任を帰せない中立軸が、世代交代の合図となり、 当事者同士の心理的摩擦を最小化します。

欧米のプロフェッショナルファームのように、役職が“temporary role(期間限定の任務)”として 付け外しされる文化が整っていれば、そもそも役職定年は不要かもしれません。
しかし日本では、役職=地位=人格の延長という文化的前提が根強い。 だからこそ、機械的なルールとしての役職定年が、実務上もっとも優しい選択になるのです。

優しさの正体=年功と終身の共依存

役職定年が必要とされる背景には、年功処遇×終身雇用の共依存があります。
企業は定年まで社員を守り、社員は長期的な忠誠を返す。
この関係が続く限り、組織は基本的に「人を外さない」方向へと流れます。

その結果、役職は固定化し、人件費は上方硬直し、意思決定の若返りは進まない。
そこで必要最低限の流動性を担保する安全装置として、年齢一律の外しが機能しているのです。

順序の論点:「年功処遇の否定なくして、役職定年の否定なし」

役職定年を「時代遅れ」と否定するのは簡単です。
しかし問いはむしろ、年功処遇をどう扱うのかという点にあります。
この検討の順序を誤ると、組織は改革疲れに陥ります。

年齢や勤続ではなく、役割と成果で報いるという原則を、賃金テーブル・昇降格・昇給ロジックにまで 一貫して実装できるのか。
そこに踏み込む意志がない限り、役職定年は唯一のバランス装置であり続けます。

解決策① 専門家集団としてのプロフェッショナリティ具体化

年齢や役職ではなく、専門性×提供価値でキャリアを定義する。 これは日本企業における“安全な流動性”を生む第一歩です。

  • 職務定義:「何を成し遂げる職務か」「求める専門スキル・経験」を明文化
  • 熟達レベル:同じ職務内で専門性の熟達レベルを設定し、年齢に依存しない昇降格
  • 報酬連動:専門性レベルと市場レンジを連結し、成果・希少性・代替可能性を反映
  • 再任用設計:管理から専門への“再スキル化”を標準ルート化(プレイヤー回帰の正当化)

これにより、50代管理職が専門職として再出発する道筋が可視化され、役職定年は単なる降格ではなく 「キャリアの新章」へと意味づけられます。

解決策② 役職を“地位”ではなく“一時的役割構造”へ

「部長」「課長」を称号ではなく、フェーズ限定の任務として付与・更新・終了する。
具体的には、任期・ミッション・KPI・移管条件を最初から明示し、着任=始まり、離任=完了として祝う。

  • 任期・更新基準:2〜3年のサイクルでミッションレビュー、更新/移管を透明化
  • 移管セレモニー:「外す」ではなく「引き継ぐ」。成功の可視化で心理的安全を担保
  • 役割ポスティング:次期任務を社内公募し、能力証明と学習機会を開く

役職の付け外しが日常化すれば、役職定年は“不要になる”のではなく、次の任務への通過儀礼に変わります。

結語:制度を責めず、構造を更新する

役職定年は、成熟しきれていない組織にとって、もっとも現実的で優しい安全装置です。
これを手放せる日が来るとすれば、それは私たちが年功処遇を超え、役割で動く組織文化を ほんとうに実装できたときでしょう。

役職定年を否定したいなら、まず年功処遇の否定から――。
その順序を、経営の意思として明示することが、はじまりです。

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