複線型人事制度が「専門職」を社内業者にしてしまう
「複線型人事制度における専門職って、わがままな業者みたいになりますよね。」
セレクションアンドバリエーションの平康慶浩です。
あるクライアントから聞いた言葉が、私の中にずっと引っかかっています。
もちろん、その方が社員を貶めたいわけではありません。
むしろ、その人材が持つ専門知識を評価しているからこそ、組織の中での役割が「業者扱い」になってしまうことに強い違和感を抱いていたのです。
複線型人事制度は、多様なキャリアのあり方を尊重するために導入されたものです。
管理職になれない人にもうひとつのキャリアパスを用意するとか、あるいは専門性を高めたい人の居場所を確保する。
理念としてはとても健全です。
けれど現実には、専門職という存在が組織の中で「やっかいな存在」になってしまうことがある。その理由はどこにあるのでしょうか。
「専門職」とは「技術で尖った人」ではない
日本企業での専門職の定義をたどっていくと、どうしても「管理職になれなかった人の受け皿」というニュアンスが付きまといます。
あるいは、研究開発や技術職の中で、「ひとつの領域に深く尖った人」をそのまま専門職と呼んでしまう。
こうした理解が広がった結果、専門職は「人をマネジメントできない人」か「技術しかわからない人」のどちらかとして扱われてしまったのです。
その延長線上にあるのが、冒頭の「業者」扱いという現象です。
専門職の人が事業の議論に参加しても、「それは技術的に無理です」と否定するだけで終わってしまう。
あるいは「他社ではできていること」にも「うちでは工数的に難しい」と答えるだけになってしまう。
代替案や新しい可能性を提示しない姿は、まるで外注先と同じです。
そう見えてしまうのは、本人の能力不足ではなく、制度と定義の問題なのです。
複線型人事制度は「管理職」の定義も間違えてしまっている
なぜ専門職が「業者」になってしまうのか。その理由はひとつではありません。
まず、制度設計の出発点に「救済」の色合いが強かったことが大きいでしょう。
管理職に登用できなかった人を抱えるための仕組みとして制度がつくられたために、専門職が「プラスの役割」ではなく「マイナスを補う役割」として定義されてしまったのです。
さらに、評価の基準も偏っていました。
専門職を評価するとき、どうしても「特許の数」や「技術の深さ」といったものに目が行きがちです。
しかし、いくら特許を出しても、それが事業に結びつかなければ会社の成長にはつながりません。
にもかかわらず、そこでの評価が続いてきたため、専門職は「技術はあるが事業とは関わらない人」と見られる構造ができあがってしまいました。
そして最後に、日本企業の文化そのものも影響しています。
多くの会社で意思決定の中心は管理職にあります。
専門職が会議に参加しても、せいぜい「現場の声」として扱われる程度で、戦略の方向性を左右する立場には置かれません。
結果として、専門職は「社内にいるけれど外部のような存在」になり、業者的に見られてしまうのです。
専門職が事業を作り、管理職がスケールさせる
では、本来あるべき専門職の姿とは何でしょうか。
私は、専門職を「ビジネスシーズとニーズを結びつける人材」と定義したいと思います。
言い換えるなら、「ビジネスディベロッパー」です。
専門職は単に知識や技術を持っている人ではなく、それを事業につなげる人です。
顧客の課題を理解し、それを技術の言葉に翻訳する。
逆に、自分たちの持つ技術の可能性を顧客の言葉に変えて提案する。
「技術を事業に変える翻訳者」であり、「市場を切り拓く開発者」こそが、専門職の本質的な役割ではないでしょうか。
このとき、管理職との関係は明確に分けられます。
専門職は事業をつくり、育てる専門家。
管理職は人と組織を動かす専門家。
事業をスタートさせるのが専門職、事業のスケールを担うのが管理職
その補完関係があってこそ、組織は持続的に成長できるのです。
シリコンバレーの大企業では、この姿がすでに一般化しています。
GoogleやMetaで「フェロー」と呼ばれる人たちは、ただの研究者ではありません。
新しい事業領域を切り拓き、組織を成長させる原動力です。
日本の複線型制度も、この水準を目指すべきでしょう。
専門職をビジネスディベロッパーに育てるための人事制度
「専門職は業者のようだ」というクライアントの言葉は、日本の人事制度に深く根付いた誤解を示しています。
管理職になれなかった人、技術にしか関わらない人。
そんな定義をしている限り、専門職はいつまでも業者的に見られてしまうでしょう。
しかし、もし私たちが専門職を「ビジネスディベロッパー」として定義し直すなら、状況は大きく変わります。
管理職と専門職が互いに補完し合い、片方が人を動かし、もう片方が事業を動かす。
そうした関係が実現したとき、初めて複線型人事制度は企業の成長を後押しする仕組みとして真価を発揮するのです。
もし自社の専門職をビジネスディベロッパーとして育成し、活躍させたいのであれば、弊社にご相談ください。


