改革の背景には、コーポレートガバナンス・コードへの対応や株主との対話を通じた透明性・説明責任の要請に加え、中期経営計画に沿った「中長期で企業価値を高めるための報酬制度設計」の必要性があったという。
今回は、同社の取締役 上席執行役員の前島 隆之氏、経営管理部 部長の清水均氏、経営管理部 担当部長 兼 監査等委員会室長の伊藤司氏に、制度改革の経緯や設計上の工夫、そして導入後に見えた変化について話を伺った。
1. 役員制度改革の背景
――まず、この制度改革を実施しようと思った背景と、その当時抱えていた課題について、改めてお聞かせいただけますか。
前島 氏::
中長期的な企業価値向上を意識した役員報酬制度が必要であると判断したためです。 当社の役員報酬は長年、固定報酬と単年度ベースの業績連動報酬のみで構成されていました。株式市場でのコーポレートガバナンスへの関心が高まる中で、2021年に業績条件付株式報酬(PSU)の仕組みを導入しましたが、株主・投資家の皆さまからは、期待したほどの評価を得るにはいたりませんでした。 機関投資家との対話を重ねる中で「現在の役員報酬制度は外形的には株式報酬を導入した形にはなっているが、実質的には中長期的な業績連動に十分コミットしたものとは言えない」との指摘を受け、ガバナンスの観点からも役員報酬制度を再構築する必要があると再認識しました。 こうした経緯を経て、御社にご相談をさせていただきました。
――主に投資家の皆さまの視点が、改革を進める大きな要因になったということですね。
前島 氏:
そうです。株主総会では、当初導入した株式報酬制度の議案自体は可決されましたが、株式市場からの意見や市場環境の変化を踏まえ、ガバナンス強化に資する役員報酬制度を再構築する必要性を改めて実感しました。
2. 制度改革での苦労
――制度改革を進めていた当時を振り返って、「あれは大変だった」と思い出すことはありますか。
前島 氏:
制度設計の初期段階では、固定報酬をどの程度変動報酬に振り分けるかという議論から行いました。固定報酬を削って譲渡制限付株式(RS)を上乗せするのか、あるいは変動報酬として業績連動型株式ユニット(PSU)を導入するのか。短期の金銭報酬と中長期の株式報酬のバランスをどのように取るのかについては、慎重な議論を重ねました。 そもそも、従来の短期的な業績を重視した考え方から、株式市場を意識した中長期視点の導入へと仕組みを切り替えること自体が、大きな挑戦だったと思います。
清水 氏:
KPIの設定にも多くの検討を要しました。金銭報酬については、受注高・営業利益額・当期純利益額といった、比較的わかりやすい指標を採用しました。一方で、中長期の株式報酬にはTSR(株主総利回り)を採用しましたが、ROAやROEと比べると社内での馴染みが薄く、「そもそもどういう概念なのか」「何をもって達成とみなすのか」といった点を他社事例も参考に、納得感のある設計を探っていきました。
――KPI指標の設計は特に検討を重ねた部分でした。
前島 氏:
そうですね、単に業界動向に合わせるのではなくグローバル企業もベンチマークしながら「乃村工藝社としてのあるべき役員報酬制度」を構築することを意識しました。 その意味では、TSRやROEなど株式市場に対して中長期のコミットメントを示す上で、一定のインパクトを持つ仕組みになったと感じています。
――その他、制度を設計する上で、重視されたポイントはありましたか。
前島 氏:
報酬水準も一部見直したのですが、その前提としての「職責の明確化」です。役職ごとの線引きが曖昧だったため、役職階層ごとの報酬水準も「人」で決まることが往々にしてありました。そのため、委任型・雇用型といった役員の契約形態を整理しつつ、取締役と執行役員の役割の違い、各階層に求める責任範囲と期待役割なども併せて整理・明確化しました。
3. 制度設計後の変化
――制度導入後、運用を始めてからどのような変化があったのでしょうか。
前島 氏:
制度自体は整い、透明性の高い仕組みとして現在は機能しています。役員報酬が「何に連動しているのか」「どのようなロジックで決まっているのか」が、社内・社外ともに以前よりも説明しやすくなりました。 一方で、運用を重ねるうちに、組織再編などの役割変化に対応できる柔軟性のある仕組みも必要だと思っています。組織再編などのタイミングでは、制度を固定化しすぎず、変化に応じて見直せる余白を残すことが、今後の安定運用には必要だと考えています。 また、財務指標の面では、ROEについては当初10%を目標としていましたが、現在は既に15%に到達しており、次期KPIの水準設定も重要になってきます。重要なのは単に数値目標を上げ続けることではなく、持続的な改善を促す仕組みとして制度をどう機能させるかを問い続けることだと感じています。
清水 氏:
今後は、非財務的な要素、特にサステナビリティや人的資本の観点をどのように役員報酬のKPIに組み込むかも重要なテーマになると認識しています。CO₂削減や人材開発など、非財務指標を長期価値とどう接続するか、投資家の期待と社内の理解のギャップをどう埋めていくのか。そのあたりを丁寧に整理していくことが、次のステップだと考えています。
4. コンサルティングに対する評価と今後の展望
――弊社がお手伝いした中で、あえて評価いただけるとしたらどのような点でしょうか。率直なご感想をお聞かせください。
清水 氏:
他社事例やデータベースを用いた比較分析によって、KPI設定の根拠を明確にできた点が大きかったです。統計データやグローバル企業の事例も含め、多面的な情報を適切なタイミングで提供いただいたことで、「なぜこの指標・この水準なのか」を社内で説明しやすくなりました。
前島 氏:
そうですね、的確で無駄のない支援をいただいたことで、当初の想定よりも短期間で制度改革を実現できました。
伊藤 氏:
はい、細かな依頼にも迅速に対応いただき、社内稟議を進めるうえで必要なロジック形成を的確にサポートしていただけました。
――ありがとうございます。最後に、今後の展望についてお伺いできればと思います。
前島 氏:
役員報酬制度については、ひとまず一定の形に到達したと考えています。 一方で、従業員の制度改定については、初任給やベースアップもここ数年継続的に引き上げていますが、優秀な人材の維持・確保は今後ますます重要なテーマになります。 また、役員層については、次世代リーダー層の育成やサクセッションプラン(後継者計画)の整備を進め、変化の中でも持続可能な成長を実現できるガバナンス体制を築いていきたいと思います。
――役員報酬制度をきっかけに、中長期的な成長につながっていくことを期待しております。本日は貴重なお話をありがとうございました。
※所属・肩書等は 取材当時のものを記載しております。
- 企業名
- 株式会社乃村工藝社
- 発足
- 1892年3月15日(法人設立1942年12月9日)
- 資本金
- 64億97百万円
- 社員数
- 連結2,039人/単体1,498人(2025年2月28日現在)
- 事業内容
- 空間創造における、調査・企画・コンサルティング、デザイン・設計、制作・施工 ならびに運営・管理