静かな退職は「自律のサイン」かもしれない-これからの組織に求められる対話の設計-

「平康さんの文章は、ビジネスパーソンにとって“怖い話”が多いですよね」

そんな言葉をいただくことがあります。
コンサルティングの現場で、課題や兆候を先に見てしまう分、どうしても“怖さ”が前面に出ることがあるのだと思います。

しかし、本来コンサルティングは“怖い話”の先にある、希望を現実にするための取り組みです。
今日はその一端として、「静かな退職」のその先にある未来を描いてみたいと思います。 SMBCコンサルティングのネットプレスでも、これまで「静かな退職」について記事を書いてきました。
今回は、さらにその先――
静けさが会社の中で広がりつつある今、組織は何を選び取るべきか、という視点で整理していきます。


目次

静けさは、世代を超えた「無気力」なのか

「静かな退職」という言葉は、この数年、急速に浸透してきました。
最低限の仕事しかしなくなる、主体性を失う――
そんな説明がされやすい現象です。

ただ、これを
「若手の無気力」や「ミドルの諦め」という世代論でまとめることには、危うさがあります。

確かに、各世代にはそれぞれ特徴があります。

20〜30代働き方・生き方を複線化させた「多様化世代」
40代就職氷河期を経て、仕事と家庭の重圧を抱える「重圧世代」
50代成長と喪失の両方を経験し、これからの生き方に迷う「惑い世代」
60代以上長寿と貧困リスクの狭間で、生き方を再構築する「沈黙世代」

このような区分は説明モデルとしては有効ですが、静かな退職という現象の本質を捉えきれてはいません。

静かな退職が起きる背景には、「自律」と「対話」が十分に設計されていない組織構造そのものが存在している、と私は考えています。

本稿では、静けさが広がる職場で、会社がどのような未来をつくり得るのかを考えていきます。


静けさは「無気力」ではなく、「自律の芽生え」でもある

結論から言えば、静かな退職はやる気の欠如ではなく、「自律性の兆し」として捉える必要があります。

私が多くの現場で感じるのは、静けさの裏側には「自分で働き方を選びたい」「働く意味を確かめたい」という主体性が潜んでいるということです。

●20〜30代:多様化世代
本業・副業・学習・コミュニティなど、複数の軸を持つ彼らにとって、会社は「選択肢のひとつ」です。だからこそ、会社での働き方にそそぐ「熱量」の調整を静かに行います。
ただ、この世代だけが「静か」になっているわけではありません。

●40代:重圧世代
仕事・家庭・キャリアが交差する時期で、努力と処遇が結びつかないと、声を荒らげるより「静かに距離を置く」傾向が強まります。これもまた自律の一環です。

●50代:惑い世代
役割の揺らぎや組織変化に直面し、「必要とされていない」という感覚が静けさを生みます。
私自身も50代として、もし自分で起業していなかったら、そんな思いにとらわれたかもしれない、と強く思います。

●60代以上:沈黙世代
人生100年時代における働き方の選択の中で、静かな検討と調整が続きます。
(ある意味、この世代こそ生成AIに人生相談をしていると言えるかもしれません。)

これら全てを踏まえると、静かな退職は決して怠慢ではなく、人が自分の働き方をデザインしようとする自然な動きです。


静けさは「対話の欠如」が生み出す空白でもある

静かな退職に共通して見られるもう一つの要因が、組織の対話機能の低下です。

  • なぜこの評価なのか
  • 何を期待されているのか
  • この仕事は何のために存在するのか
  • 会社はどこに向かうのか

こうした情報が共有されないと、組織の中に“静けさの空白”が広がります。

これは世代差ではなく、「情報と感情の流れ」が止まったときに生まれる現象です。
最近の人事の現場では、ロジックの共有だけでなく、感情の扱い方が重要だと感じる場面が増えています。

静けさとは、怒りの対極ではなく、対話が失われた場所に残る「沈黙の跡」なのです。


静けさが広がるとき、会社はどう動くべきか?

静かな退職への対策というと、
“働かない人にどう向き合うか”に焦点が当たりがちです。

しかし本当に取り組むべきは、
静けさを生み出す組織構造のほうです。

その構造を変えるために、企業が未来へ向けて取り組むべきは、
次の2つです。

未来をつくる鍵①:自律の再設計

自律とは「好き勝手にすること」ではありません。
ビジネス組織において自律とは、判断と納得の材料を整備し、個人が主体的に動ける状態をつくることです。

組織が取り組めることは、次のようなものです。

  • 職務・役割の明確化:評価基準と期待値を可視化する
  • スキルと成果の因果を透明化する
  • キャリアの複線化:学び・異動・越境のルートを設計する
  • 外部経験の活用:副業・学習の成果を組織に還元できる仕組みをつくる

これらが整うと、静けさは単なる退却ではなく、「自律的に仕事を選び直すための力」として発揮されます。

未来をつくる鍵②:対話の再設計

対話は量ではなく、質が重要です。
静かになるのは、対話が少ないからではなく、対話の意味が機能していないからです。

  • 1on1を「評価説明」ではなく「相互理解」の場にする
  • 世代間の違いを“前提”として共有する
  • 経営が「なぜ変えるのか」を丁寧に語る
  • 評価者の「聴く力」を鍛える

こうした対話が整うと、静けさは「声にならない声」を拾うためのヒントに変わります。


静けさは、変革の序章であり、終章ではない

私は、静かな退職という現象は、働く人の主体性が失われているのではなく、自律の時代が到来したことを示すサインだと考えています。

そして、組織が対話を再設計することで、静けさは「希望の入り口」に変わる。

世代論だけで静かな退職を説明してしまうと、この本質を見誤ります。

必要なのは、静けさの意味を読み取り、それを「自律と対話の土台」へ転換すること。

これができる会社は、静かに働く人を排除するのではなく、静かでも力を発揮できる組織をつくり、世代を超えた協働が自然に生まれるはずです。

2030年に向けて、静けさを恐れず、読み取り、活かせる企業こそ、変化に強く、人を活かす組織として生き残っていくと感じています。

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