【2026年最新】初任給はなぜ急上昇?71%の企業が引き上げた「本当の理由」

平康 慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表・人事コンサルタント)

「初任給30万円超」がニュースになる時代——。
かつて初任給は「お試し金額」と呼ばれ、親元同居が前提でした。
なぜ今、企業は初任給に「投資」するのか?

71.0%が引き上げた2025年。その裏にある「社会の前提の激変」を読み解きます。

【この記事でわかること】

  • 昭和・平成・令和で初任給の意味がどう変わったか
  • なぜ令和では「生活成立ライン」と「時価プレミアム」が同居しているのか
  • これからの初任給設計に必要な「二階建て」の考え方
  • 既存社員との整合性を保つ実践的な設定方法

目次

初任給をめぐる、それぞれの立場

初任給の議論は、話し手によってややこしくなりがちです。

  • 新卒や学校の就職課からすれば、企業の魅力を測る物差しになります
  • 入社数年目の若手からすると、自分たちが追い越されるかもしれないという不安や、あわよくば自分たちの給与も増えるかもしれない、という期待の的にもなります
  • 就職する子の親の立場からすると、生活に必要な金額を受け取れるのだろうか、という親心にもなります

令和の現在では、初任給には「生活として成立する最低ライン」と「職種・希少性の時価」が、同じ金額の中に同居しています。

しかしこれは、かつての常識ではありませんでした。

今回は、初任給の変遷を「世帯の変化」も含めて整理し、これからの企業でどのように設計すべきかのヒントにしてみたいと思います。


2025年の初任給引き上げ状況-71.0%の企業が初任給を引き上げるが社内バランスが微妙

初任給にかかる直近の動きはかなり明確です。

帝国データバンクの調査では、2025年4月入社の新卒初任給について「引き上げる」と回答した企業が71.0%、平均引き上げ額は9,114円でした。
背景として物価上昇・人材確保・最低賃金上昇が挙げられています。
賃金統計の側でも、所定内給与(※通勤手当を含む)として、新規学卒者賃金の上昇が確認できます。

この「通勤手当を含む」という注記は地味ですが重要で、求人票の見せ方において、何を基本給として見せるか、に直結します。

関連記事:通勤手当についての今昔

一方で、初任給引き上げは、社内の給与バランス問題もクローズアップします。
特に昨年までの入社者との逆転が起きないような調整をするかどうか、という問題など、単純に新人の給与だけ増やせばよい、という話ではないことにも影響します。
ここを放置すると、採用できても、すぐにやめてしまったり、やる気をなくしてしまったりする問題が生じます。


時代別に見る初任給の変遷

昭和時代:初任給は「お試し金額」だった

昭和の賃金観は、ざっくり言えば「長く勤める前提」でした。
初任給は、将来の昇給・昇格を前提に抑えられ、いわば「入口の安さ」が許容されていました。
企業福祉と親元支援という二重の受け皿
この「安くても成立した」背景は、制度の外側にもあります。

  • 企業側の住居支援(寮・社宅・住宅手当)が厚かった
  • 親元からの通勤・家計内支援が今より一般的だった
  • 結果として、初任給単体で生活を完結させる必然性が相対的に低かった

ここで言いたいのは、「昭和はブラックだった/牧歌的だった」という二分法ではなく、世帯・住居・企業福祉の前提が違うという点です。

初任給は「給与」というより「長期契約の頭金」に近い性格を持っていました。

平成前期(1989-2005年):賃金抑制と親同居前提

バブル崩壊後、賃金は抑制され、企業は固定費を上げにくくなります。
この時期、景気の悪化やデフレの進展などもあり、初任給を上げるという発想にはなりませんでした。

すると何が起きるか。

若年層の生活は「親同居」で成立させることを前提に、企業も個人も考え始めます。
統計局の国勢調査に基づく情報として、1995年(平成7年)の「親との同居率は42.5%」と紹介されています。
同じく1995年の国勢調査の特別集計では、20〜39歳未婚者の親同居に関する数値(人数規模)にも言及があります。

もちろん、親同居は文化・価値観の問題でもあります。
ただ制度設計の観点では、ここで一度、初任給が「生活費の全部を担わなくてもよい」という前提に寄りかかってしまった。
これが後々まで尾を引きます。

平成後期(2006-2019年):要求水準と初任給のギャップ拡大

平成後半は、成果・専門性・転職市場が強まります。
一方で、初任給の提示は、企業によっては「従来の延長」に留まりました。
すると、若手から見ると次の違和感が生まれます。

  • 仕事の要求水準は上がった(スピード、IT、対顧客、説明責任)
  • でも初任給は「お試し金額」のままに見える
  • そのギャップが、「最初から条件が良い会社に集中する」構造を強める

ここで重要なのは、初任給の大小そのものではなく、初任給が示すメッセージです。

「会社の中で育てるから最初は低い」なら、育成の設計(配属・OJT・育成投資・昇給の筋道)が求人票にセットで書かれていないと、もはや通用しません。
しかしこの時期でも、日本企業における、従業員への教育投資は、OECD標準と比べても低いままでした。

教育もせずに初任給は低いまま。

そんなことがあたりまえだったこの時期の制度設計において、私自身、忘れられないインタビューがあります。

平成27年(2015年)〜平成29年(2017年)にかけてお請けした、売上数百億円規模の企業の人事制度改革のことです。
テレビCMを華やかに打ち出していた、時代の寵児のようなその企業で、期待の若手と呼ばれる人たちをピックアップしてもらってグループインタビューを行いました。
そこで出た言葉は「毎日ひもじいです」というものでした。
それに対して社長が
「チャンスは与えている。自己研鑽が足りないまま、チャンスをつかめずに低い給与になっているのは本人の責任だ」
と言い捨てたのも、さらに印象的でした。
この会社はのちに世間を騒がす問題を起こし、現在では社長以外が総入れ替えになっています。

令和時代(2019年-):「生活成立ライン」への転換

そして令和の今。
明らかに「世帯」の前提が変わりました。
世帯、というのは家族ということではありません。
生活の単位を世帯といいますが、この世帯における割合で、明らかに「一人暮らし」が増えてきたのです。堅苦しく言うと、単身化、ということになります。

国勢調査の概要では、一般世帯における1人世帯の割合が、2010年32.4%→2015年34.5%→2020年38.0%と上昇しています。
この「単身化」は、初任給の意味を変えます。
親同居・家計内支援が当然でなくなり、住居費・光熱費・通信費を含めて、初任給単体で一人暮らしの生活が成立するかが問われるようになってきたのです。
そこに物価上昇と人材不足が重なり、初任給引き上げが加速しました。
そこで生じた引上げ理由のひとつが、初任給はお試し金額ではなく、「将来期待への前払い投資」だという整理です。
さらに採用難の売り手市場の進展が、その意味を後押しします。

令和時代の初任給設計|二階建て構造の理解

令和時代のこれからの初任給が難しいのは、まさにこのポイントです。
お試し価格から、生活費としての側面が強くなり、さらに採用難の中で、他社よりも高く示さないと人が雇えなくなっている、という問題です。
特に高卒採用市場でその傾向は顕著です。

1階部分:生活成立フロア

  • 単身での住居費負担を前提にしたライン
  • 通勤・社会保険料や住民税、所得税など、手取りの実感まで含むライン
  • ここが低いと、採用競争以前に「応募が集まらない」状態になります

2階部分:時価プレミアム

  • IT、研究開発、営業、施工管理など、職種別の需給で上がる部分
  • 将来期待として投資する部分(早期戦力化が前提)
  • ここは単純に引き上げるのではなく、職種やスキルなど、説明できる形で設定することが一般的になっています

初任給の設計を誤る企業は、この二階建てを一律の基本給ロジックで表現しようとして、失敗してきました。

構造性格判断基準
2階:時価プレミアム職種・スキル別市場価格・希少性・将来期待
1階:生活成立フロア全職種共通単身生活の最低ライン

これからの初任給設定|5つの実践ポイント

これからの初任給設定の基本として、私がまず勧めるのは次の5点です。

ポイント1:月例給の内訳を見せる

基本給/手当/固定残業の扱いを明確にする。
特に固定残業(見込み残業)がある場合、「何時間分で、超過分はどうなるか」まで明記する。曖昧さが一番疑われます。

ポイント2:生活支援部分を明文化する

寮・社宅・住宅補助・通勤の扱いを明確にする。
単身化が進むほど、ここは採用の差になります。

ポイント3:初任給の次を示す

1年後・3年後のモデルを提示する。
初任給が前払い投資なら、投資回収の設計=昇給の設計が必要です。

ポイント4:職種別のレンジと理由を示す

「職務・スキル・希少性」で決めるなら、それを明らかにする。
そうしないと”謎の格差”になります。

ポイント5:既存社員との整合性を保つ

若手〜中堅の賃上げ方針を連動させる。
初任給引上げは内部の納得性も連動します。ここを無視すると、結果的に逆効果です。


よくある質問(FAQ)

初任給を上げると既存社員が不満を持ちませんか?

初任給だけを上げると不満は必至です。ポイント5で述べた通り、若手〜中堅の賃上げ方針と連動させることが重要です。「新人だけ優遇」ではなく「報酬体系全体の見直し」として説明できる設計が必要です。

中小企業でも初任給を上げるべきですか?

「上げるべきか」ではなく「1階(生活成立フロア)を満たしているか」がポイントです。大企業に金額で勝つ必要はありませんが、応募者が生活設計できる水準は必要です。住宅補助などの生活支援とセットで考えましょう。

初任給と基本給の違いは?

初任給は「入社時の月例給総額」、基本給は「手当を除いた本体部分」です。求人票では「初任給」として総額を見せることが多いですが、基本給・手当・固定残業代の内訳を明示することで信頼性が高まります。


まとめ:初任給は「会社がどんな社会を前提にしているか」を問う制度

初任給の意味は、時代とともに大きく変わりました。

時代初任給の位置づけ
昭和「お試し金額」でも成立(企業福祉+親元支援)
平成賃金抑制の中、親同居が生活の受け皿に
令和単身化+物価上昇+人材不足で「生活成立ライン」へ

だからこそ、初任給は「一律に上げるか下げるか」ではなく、3点セットで設計する必要があります。

1. 生活成立フロア(1階)をどう置くか

2. 時価プレミアム(2階)をどう説明可能にするか

3. 社内の給与体系とどう整合させるか

初任給は、採用の入口であると同時に、月例給構成全体(基本給・手当・賞与・昇給ルール)を問い直す本丸でもあります。

ぜひ、「新卒採用のため」だけでなく、自社が人材にどう向き合うのかを考える第一歩として整理してみてください。


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