去年と同じハラスメント研修、今年もやりますか?

平康 慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表・人事コンサルタント)

目次

毎年研修をしているのに、ハラスメントが減らないこと、ありませんか?

ハラスメント研修は、やっていない会社よりも、きちんとやっている会社のほうが悩んでいるのではないでしょうか。
毎年実施していて、理解度は確実に上がっているはずなのに、なぜかエンゲージメントスコアはあがらないし、上司に対する不満で離職する若手もあまり減らない。

管理職からは、どこまで気を遣えばいいんだ、という逆の不満すら出てくる場合もあります。

管理職向けの研修は徹底しているし、なんなら動画でも常に視聴できるようにしている。

理解度テストもちゃんと実施している。

それでも、エンゲージメントのフリーコメントなどでは、こんな言葉がでてきます。

  • 「ハラスメントをする人の行動が、結局変わっていません」
  • 「感情的な上司が、自分がハラスメントをしているということを理解しているように見えません」
  • 「上司の叱責で病んだ同僚がいます」
  • 「ハラスメント教育ばかりで、社内がギスギスしている気がします」

そんなコメントが届いているのに、人事部として、今年も去年と同じ研修を実施してしまう。
それは、人事側としての実務としては、ごく自然な選択でしょう。

講師を変えたり、コンテンツを変えたり、研修会社を変えようとしても、そのための検討時間は限られています。実際、変えたところで大きな変化があるとも思えない。どの会社のハラスメント教育の似たり寄ったりに見えるからです。
それに、新しい会社との取引のための手続きはとても面倒でもあったりします。

もしあなたの会社で、そんな状態になっているとしたら、ここからの文章をぜひ読んでみてください。

弊社が実施してきた、割と効果が出るハラスメント教育の事例をご紹介します。


相談事例:きっかけは研修後アンケートに出てきた「黙ってしまう理由」

昨年弊社では、600名規模の営業系の会社(管理職は150名程度)から相談を受けました。
体育会系的な組織風土で、正直、ハラスメント傾向が強い社風でもある。
だからそれを改善するために、ハラスメント研修を5年連続で実施した。
もちろん昨年も実施したのだけれど、研修後アンケートの自由記述に驚いた、という相談でした。

それは、研修を受けた側の社員たちが、5年も続いているハラスメント研修に対するあきらめの言葉だったのです。

  • 「教育内容はわかるけれど、実際に現場で声を上げても変わらない」
  • 「上司に行動に対して不満を言うと、後で評価を下げられる気がする」
  • 「おかしいと思っても、声をあげた人が空気を読まないように見られる」
  • 「結局、みんな黙ってます」

弊社では、この相談に対して、解決すべきポイントを丁寧に示しました。
ハラスメント的行動の大半は、実は、それほど目立つ行動ではないのです。

ちょっとした日々のやりとりの中で小さな負担が積み重なり、それがハラスメント的な組織風土を構築してしまっているのです。

そして、ふとしたきっかけで、離職やトラブルのもとになっていくことです。

「言っても変わらない」という風潮が広がると、ハラスメント研修の意味がなくなってしまいます。

いや、問題があるなら「相談窓口に相談してください」と伝えても、「言っても変わらない」と考えているなら、相談は増えません。
研修で「ハラスメントは許されない」と伝えても、「言った側が損をする」と感じているなら、周囲は関わらないようになります。

つまり、研修内容が難しいのではなく、職場の受け止め方が先に決まってしまっている

この状態のまま研修を重ねても、効果は出にくいのです。


なぜ効かないのか:問題は「知識」より、日常のやりとりにある

ハラスメントを起こす人が、最初から悪意を持っているとは限りません。

実際、私たちが改善してきた現場で多いのは、こういうケースです。

  • 指導のつもりだった
  • 正しいと思っていた
  • 相手のためだと思っていた
  • 忙しくて余裕がなかった
  • 相手が悪いから、つい感情的になった

ここに、上司と部下という立場の差や人間関係が重なってくると、それがハラスメントに転じていきます。
言った本人にとっては「普通のこと」でも、受け取った側にとっては大きな負担になる。しかも受け止めた本人も、これは指導だからちゃんと聞かなければ、と思ってしまい、積み上げられた負担に気づきにくいこともあるのです。

だから、研修を「知識の説明」として広めるだけでは、どうしても限界があるのです。

法律や定義を学ぶことは大事ですが、それだけでは現場の言い方や対応は変わりません。

管理職の「コミュニケーションスタイル」と「個別部下への対応」を、しっかり練習できる形にすることこそが重要なのです。

特に問題が起きやすいのは、次のような場面です。

  • 指導や注意のしかた
  • 面談での伝え方
  • 雑談や冗談のつもりの一言
  • 相談を受けたときの初動
  • 周囲が見て見ぬふりをする瞬間

これらの行動を変えるには、日常の場面に合わせて、どう言い、どう受け止め、どう対応するかを、具体的に示す必要があります。

そして、そのような研修を設計して実施する前に、もうひとつやるべきことがあります。


研修の前にやるべきこと:「どの部署・どの役職でハラスメントが多いのか」を確かめる

全社員に一律で研修を実施するだけでは、研修の効果は平準化してしまいます。
そもそも研修には費用と時間がかかります。
1回の研修に、対面で集まれるのはせいぜい40名ほど。
仮に150名の管理職に研修を実施するのなら、4回の実施が必要です。
講師の費用だけでなく、場所のコストや時間のコストも多大です。
そして、参加した多くの人たちは、「ハラスメントをするやつのせいで面倒だな」と思ってしまう。ハラスメントをしている当の本人する、そう思ってしまったりするのです。
この状態で全員研修を繰り返すと、現場にはこうした反応が出てきます。

  • 「また同じ話だ」
  • 「うちは関係ない」
  • 「結局、何も変わらない」

だから最初に必要なのは、研修資料を作り直すことではなく、どの部署・どの階層・どんな場面でハラスメント起きやすいのかを確かめることです。
ここを明らかにしないまま研修を続けると、効かない研修を真面目に積み上げることになります。


「どこで起きやすいか」を確かめると、研修の設計が変わる

「起きやすい場所を確かめる」と言うと、大げさに聞こえるかもしれません。
しかし実際には、難しいことをするわけではありません。

ポイントは、現場で起きている問題を「全社の一般論」に戻さず、もう少しだけ具体的に扱うことです。たとえば、次のような問いに答えられる状態をつくります。

  • どの部署で相談が増えているのか
  • どの階層で、言い方や関わり方の問題が起きやすいのか
  • どんな場面で、揉めごとが起きやすいのか(指導、面談、雑談、評価、配置など)
  • 本人は「普通」と思っているのに、周囲は負担に感じている行動が何か

これらを明らかにすることで、研修の方向性が自然に決まります。
「全員に同じ話をする」ではなく、「この層に、この場面の練習が必要だ」という設計に変わります。


本人の自覚だけに頼らない。周囲の見え方も合わせて確かめる

また、ハラスメントや職場の摩擦が厄介なのは、当事者に悪意がないことが多い点です。
本人は「指導のつもり」「普通の注意」「よかれと思って」と考えている。ところが、受け取った側は強い負担になっている。

このズレは、本人がどれだけ真面目でも起きます。
だから「気をつけましょう」「思いやりを持ちましょう」と言うだけでは変わりません。 そこで有効なのが、本人だけに聞かないやり方です。
本人の自己評価に加え、上司・同僚・部下など周囲の見え方も合わせて確かめます。いわゆる多面評価に基づくアセスメント形式です。

目的は、犯人探しではありません

ここでよく誤解が起きるのですが、多面評価によって「評価を下げたり、懲戒処分に使うのか」という不安です。
しかし、目的はまったく違います。

  • 本人が「自分では気づきにくい点」に気づくこと
  • 組織として「どこから手をつけるか」を決めること

この二つの目的のための実施するものなのです。

あくまでも、自律的な改善を促すためのものがこれらのアセスメントです。

そして、そもそも人は、自分で気づかない限り変われない生き物でもあるのですから。


研修は「知識」より、「その場での対応」を扱うほど効く

ここまでの話を基に整理すると、研修で扱うべき内容も変わります。

法律や定義を学ぶパートは必要です。ただし、それは前提を揃えるためのものです。
大事なのはその先で、日常の場面に合わせて「どう言うか」「どう対応するか」を具体的に扱うことです。

たとえば管理職向けなら、次のような場面が中心になります。

  • 指導・注意で、言い方が強くなるとき
  • 面談で、相手を追い詰める形になってしまうとき
  • 冗談のつもりの発言が、相手の負担になるとき
  • 相談を受けたときに、最初の対応で失敗するとき

ここは座学よりも、ケースと練習が効果的です。
「この場面で、こう言いがちだが、それだと相手はこう受け取る。だからこう言い換える」
ここまで落として、実際に口に出して練習します。

さらに、「自社の状況にあわせたアレンジ」をすることで、研修効果は飛躍的に高まります。

一般的な教材を使うと、どうしても受講者は「それは極端な例だ」と感じます。
特に、明らかなハラスメント事例だけを扱うと、「自分はそこまでではない」と思って終わりやすい。

一方で、事前に現状を確かめたうえで研修を組むと、扱うべき題材が変わります。
「うちで起きているのは、こういう種類のやりとりだ」
そう整理できるので、受講者の受け止め方が変わります。


変えにくい人がいるときは、「研修で直す」以外の選択肢も持つ

現実の職場では、「研修を受ければ誰でも変わる」とは言い切れません。
感情が出やすい人、相手を追い込みがちな人、過去の出来事を引きずりやすい人。こうした傾向が強い場合、短期間で改善させるのは難しくなります。

大事なのは、ここで研修に期待しすぎないことです。
研修は必要です。ただし、研修だけで何とかしようとすると、現場の負担が増えます。

こういう場合は、研修と並行して、運用面で事故を起こしにくくする工夫が必要になります。

  • 面談や注意の場面を、本人ひとりに任せない
  • 担当範囲や役割を見直す
  • 周囲がフォローに入りやすい形をつくる

「本人を変える」だけではなく、「事故が起きにくい形にする」も同時に考える。
これが、現実的な予防策になります。


研修を「やりっぱなし」にしない。18〜24か月後にもう一度確かめる

研修は、実施した直後は意識が上がります。
しかし、忙しさが戻ると、元に戻ります。これは珍しいことではありません。

だから、研修を単発で終わらせない仕組みが必要です。
おすすめしているのは、18〜24か月後に同じ基準で、もう一度状況を確かめるやり方です。

  • 改善した点はどこか
  • まだ残っている点は何か
  • 部署や階層の差は縮まったか

これが見えると、次に何を重点的に扱うべきかが決まります。
研修のテーマを更新できるので、「去年と同じ研修」を繰り返さずに済みます。


導入の型:初回・定着・隔年で回す

最後に、実際に進めるときの、セレクションアンドバリエーションとしてのご支援ステップをご案内します。

組織風土を変えるためのハラスメント教育の基本は三段階です。

1)初回:現状を確かめ、重点を決める

  • 本人と周囲の見え方を含めて現状を確かめる
  • 経営・人事で結果を読み、重点を決める
  • 管理職にはフィードバックし、今後の行動を宣言してもらう

2)定着:管理職の場面別の練習と、一次対応の揃え込み

  • ケースとロールプレイ中心で、言い方と対応を練習する
  • 相談が来たときの一次対応を、担当者ごとの差が出ないように揃える
  • 自社で起きている題材に更新していく

3)隔年:もう一度確かめ、次の重点に更新する

  • 18〜24か月後に再度確かめる
  • 初回と比較し、改善点と残課題を整理する
  • 次年度の研修・施策の重点を更新する

今年、去年と同じ研修をやる前に

ここまで読んでいただいて、もし思い当たることがあれば、最初にやるべきことは研修資料の作り直しではありません。
「どこでハラスメント起きやすいか」を確かめ、重点対策を決めることです。

研修を毎年やられている会社ほど、ここを押さえるだけで一気に組織風土が改善します。
弊社にご相談いただければ、状況を伺いながら、対象者設計、進め方(初回/定着/隔年)の組み立てまで、現実的な形でご提案します。

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