平康慶浩です。
そういえばスキルベースの人事制度について、ブログとしては書いてなかったな、と思いまして、急遽書いてみました。
「スキル」というキーワードが広がりつつあるその背景を理解すれば、自社にどう適用すべきかがみえてきます。
悩んだらいつでもご相談を。
「業界経験なしでも採用」――そんな日が普通に来るかもしれない
想像してみてください。
製造業で20年、生産ラインの工程管理をしてきた人が、物流企業のオペレーションマネージャーとして即戦力採用される。
面接官は「物流の経験は?」ではなく、「人と設備の稼働を最適化するスキルを持っていますか?」と尋ねることが基本。
候補者は、自分の経験を「工程管理スキル」「人材シフト設計スキル」といった分類で説明し、そのスキルが物流業務にも直結することを示す――。
これまでなら「業界経験がないから難しい」とされがちな転職が、当たり前のように成立する。
その鍵になるのが、スキルタクソノミーです。
スキルタクソノミーとは何か?
スキルタクソノミーとは、人材のスキルを体系的に分類し、誰でも同じ意味で理解できるように整理した「スキルの地図」です。
たとえるなら、スーパーの野菜売り場で「根菜」「葉物」「果菜」と棚が分かれているように、スキルもカテゴリーごとに棚に並べるイメージ。
そして、この棚の配置や分類ルールを国や業界全体で共通化することで、人材の「使えるフィールド」を広げることができます。
- 欧州ではESCO(European Skills, Competences, Qualifications and Occupations)
- 米国ではO*NET(Occupational Information Network)
- 中国でも全国規模のスキルタクソノミーが構築され、地域ごとの技能分布まで可視化されつつあります。
この地図を共有すれば、「あの業界で通用するスキルが、この業界でも活きる」ことが、明確に見えるようになります。
異業種間の扉を開く、スキルベース人事の力
スキルタクソノミーを活用した人事制度として、スキルベース人事というものが今広がっています。
基本的には欧米などでジョブ型からの移行が進んでいますが、企業と個人双方に多くの利点があります。
単なる箇条書きではなく、その意味と背景を理解すると重要性が見えてきます。
- 異業種間の転職可能性が高まる
- 例:ホテル業界のフロント担当が、顧客対応スキルを評価されてIT企業のカスタマーサクセス職に転職。
- 職務内容が違っても、必要なスキルが一致していれば候補者として採用されやすくなります。
- これにより、人材採用の「経験業界依存」から脱却でき、採用母集団を広げられます。
- 高齢者・地方人材・副業人材の活躍促進
- 高齢者は豊富な経験を、地方人材は地元でのネットワークを、副業人材は別業界での知見を持ち込めます。
- スキル基準が明確になれば、「場所」や「過去の業界」に縛られず評価できます。
- 地方企業が都市部の人材をリモートで登用する際にも有効です。
- 組織の新陳代謝が促進される
- 外部人材を積極的に迎えられることで、既存組織に新しい視点やノウハウが注入されます。
- 固定化した価値観や業務プロセスを刷新しやすくなります。
- 個人の市場価値が可視化される
- 自分のスキルセットがどの業界・職種で求められるかが客観的にわかります。
- キャリア戦略を立てやすくなり、必要なスキル習得への投資判断もしやすくなります。
こうしたメリットは、人材不足が深刻化する日本にとって無視できません。
「じゃあ、そのスキルってどうやって確認するの?」
ここで現実的な疑問が出てきます。
本人が「できます」と言っても、その裏付けはどう取るのか。
海外では次のような方法が広がっています。
- オープンバッジ
デジタル証明書としてスキルの習得を可視化。LinkedInなどで共有可能。 - スキル認定試験
民間資格や業界試験で客観的に証明。例:AWS認定資格、PMPなど。 - ワークサンプル
実際の業務成果物やプロジェクト実績を評価材料に。デザイナーならポートフォリオ、エンジニアならGitHubのコード。
日本では、経産省の「DX推進スキル標準」や厚労省の「職業能力評価基準」が足掛かりですが、企業ごとの評価軸はまだバラバラ。
今後は、業界横断のスキル認証や、職務記述書にスキル要件を直接書き込む「スキル・ベースド・ジョブディスクリプション」などの活用が広がると考えられます。
日本で注目度が高まる背景
スキルタクソノミーが注目されるのは、単なる人事の流行ではなく、日本の構造変化が後押ししているからです。
- 労働市場の流動化
副業・兼業解禁、フリーランス増加で社内外の人材交流が活発化。 - 人口構造の変化
高齢者就業率の上昇、定年延長で経験を別分野に活かすニーズ増。 - リモートワークの定着
地方・海外人材の採用が現実的に。都市部集中型の採用からの脱却が進む。 - デジタル化の加速
業界横断で通用するデジタルスキルが必須化。DX推進の中核人材確保に直結。
これらが「スキルを共通言語で管理する」必要性を高めています。
コンピテンシーはどうなるのか?
ここで、人事の専門家ならこう思うかもしれません。
「スキルタクソノミーに全部統合されるなら、コンピテンシーや職能はもう不要なのでは?」
答えは、そう単純ではありません。
確かに共通化は進みますが、企業独自の価値観や行動特性まで外部基準に委ねる必要はありません。
現実的なのは、「業界や社会と共有できる標準スキル」+「自社独自のコンピテンシー」の二層構造です。
前者は採用や外部人材活用の共通言語に、後者は企業文化や長期的競争力の源泉として活用する――この棲み分けが重要です。
例えば、ある企業が「挑戦を恐れない」という価値観を重視するなら、それはスキルタクソノミー上では分類できない行動特性です。
こうした文化的コンピテンシーは、標準化とは別に保持し続けるべきです。
最後に:自社のスキル棚卸しから始めよう
この記事を読んだあと、自社の評価シートや育成方針を一度見返してみてください。
- どの項目が「世界共通語」なのか
- どの項目が「自社だけの方言」なのか
スキルタクソノミーは波のように広がってきます。
その波にのまれるのではなく、「自社らしいサーフボード」を持って乗りこなす準備を、今のうちから始めてみませんか。


