本改革では、社員にエンジニアとしてキャリアアップしてもらうための基盤整備を目指し、人事制度の抜本的な見直しを行った。
当時の課題としては、離職者の増加、採用競争力の低下、会社・従業員の思いと人事制度の乖離などがあった。
では、それをどのように解決していったのか。制度改定の経緯やプロジェクトとして進める中での苦労、運用開始後の変化について、南海システムソリューションズ株式会社の代表取締役社長 中尾敏康 氏、常務取締役 藤本忠 氏、取締役 矢野成顕 氏、情報サービス部ゼネラルマネージャー 佐藤貴俊 氏、桑田康平 氏に詳しく話を伺った。
1. 人事制度改革の背景
――まず、この制度改革を実施しようと思った背景と、その当時抱えていた課題について、改めてお聞かせいただけますか。
藤本 氏:
離職者が増加し、採用が難しくなってきたということがきっかけです。当時の人事制度は親会社を踏襲した仕組みになっており、IT系人材の思考と制度に乖離がありました。加えて(前身の南海マネジメントサービス株式会社からの)分社というタイミングでしたので、人事制度改定により新生の南海システムソリューションズ(以下NSSという)として出発したいという声が社内でも上がっていました。
――仰るように、私たちが外部から見ていた際には、まだ完全にシステムの専門家だけの組織になる前だったと記憶しています。
中尾 氏:
当時、私はNSSに南海電気鉄道本体から業務を外注する立場でしたが、一緒に仕事を進める中で、IT系人材の処遇についての相談を受けていました。その際、給与だけでなく制度全体を変える必要があると考え、外部の専門家にお願いすることになりました。
――つまり、南海グループとしてIT専門会社であるNSSへの期待度が高まっていたタイミングで経営陣も刷新され、「人事の仕組みを改めて構築していこう」という流れだったのですね。
2. 人事制度改革での効果
――プロジェクトではまず喫緊対応PJ(離職が相次ぐ状況を早急に食い止めるため、引き留め施策)から始めました。そこで、会社への期待感が高まった結果として離職率が劇的に改善したように思います。その点はいかがでしょうか。
矢野 氏:
今回の「喫緊対応PJ」金銭対応は、社員にとって予想以上の金額となり、大きな驚きをもって受け止められたようです。支給額を一括支給ではなく、継続的な手当として支給したことも期待感が高まった要因かと思います。また従来の金銭面に厳格な姿勢から一歩踏み込み、人材への効果的な還元へと舵を切ったことが、今回の施策をより際立たせたのかもしれません。
――実際に離職率に変化はありましたか。
矢野 氏:
喫緊対応として取り組んだこともあり、離職率は大きく減少しました。その点はこのPJの成果だと思います。
――その後、人事制度改定PJ(昨今の労働市場や働き方を踏まえ、IT人材にマッチするような人事制度の構築)も進めてまいりましたが、現場から変化に関する声は上がっていますか?
佐藤 氏:
業務内容は大きく変わっていませんが、働きに見合った報酬を手当として受け取れるようになりましたし、給与の上限もなくなりました。これにより、「これだけの報酬で、これだけの業務をやらなければならない」といった不満がなくなり、「やれば報われるのは当然だから頑張ろう」という意識に変わったと思います。私たちも「大変かもしれないが、その分しっかりと報酬で報いている」と伝えやすくなりました。
――報酬面が大きく変わったことで、魅力が明示されたのですね。採用面での変化もあったのでしょうか。
藤本 氏:
はい。これまでは応募者の希望額を提示できず、他社に流れてしまうことが多かったのですが、ある程度は希望額を出せるようになりました。それでも他社に競り負けることはありますが、以前に比べて採用しやすくなったと感じています。
3. 制度改定の課題と苦労
――人事制度改革を進めていた当時を振り返って、「あれは大変だった」と思い出すことはありますか。
矢野 氏:
それは評価制度の策定ですね。「コンピテンシー」や、我々の宿題だった「スキルマトリクス」の作成が一番大変でした。当初はITSSなども踏まえ、普段の業務に落とし込んで考えていました。最終的にはこのV字型の形が最もスムーズでスマートでしたが、そこに至るまでが非常に苦労した記憶があります。
――あのV字型のスキルマトリクスは、新卒で入社してキャリアを積んでいくルートにも、専門スキルを持つ人材が途中から参画するルートにも対応できるため、新卒・経験者採用の両方にうまく適用できる仕組みになったと考えています。
矢野 氏:
そうですね。一方で、評価の難しさを感じています。期末に評価を行いますが、どこまでできているかを客観的に判断するのが難しいのです。マネージャーや私たちが「このレベルだろう」と判断しても、本人との間に納得感の乖離が生まれる場合があります。評価をもう少し数値などで客観的に示せると良いのですが。そこは継続的な改善が必要ですね。
佐藤 氏:
私は新しい基準に従業員を当てはめたときの「できている」「できていない」の判断が難しかったです。これまで長く一緒に仕事をしてきたメンバーなので、初期値を設定するのに非常に悩みました。ドライに評価すれば良いのですが、どうしても「いや、でも彼は…」という情が入ってしまう部分がありました。
矢野 氏:
また、各システムの重み付けも行い、昇格要件も厳格化しましたね。P3やP2以上の等級では、どのシステムをいくつ担当しているか、といった点数づけです。あのバランスを決めるのが難しかったです。項目ごとにまとめて「こういうことができれば3点、2点、1点」と基準を示していただいたので、明確に評価しやすくなりました。
――グループ会社のシステム担当は、大小さまざまな運用システムを多数抱えているため、そこの重み付けは佐藤さん、矢野さんに大変なご尽力をいただきました。
――そこから南海グループのDX推進という文脈で、制度改定に加えて人材育成などもお手伝いさせていただいていますが、その成果について何か感じられていることはありますか?
藤本 氏:
以前は教育体系が十分に整備されていませんでした。制度自体は存在したのですが形骸化しており、機能していなかったのです。人事制度を構築し、昨年になって教育制度も作りましたので、ようやく新しい体系での教育が始まったところです。ITの専門会社として努力していますが、まだまだこれからというのが正直なところです。
4. ステークホルダーからの評価
――制度改定の結果、南海電鉄から見たNSSの見え方やアプローチにも変化はあったのでしょうか?
矢野 氏:
制度改定と合わせて、工数単価の見直しを行いました。下流工程の単価は以前より低く、上流工程は高く設定し、メリハリをつけたのです。これまでは「高い」とばかり言われていましたが、この工数単価の見直しという施策は評価されているのではないでしょうか。
中尾 氏:
制度改革とは少し違うかもしれませんが、セキュリティの強化やグループ会社のIT周りの可視化なども進めた結果、NSSの仕事自体は確実に増えています。そうした業務拡大にも対応できることを見越して制度を変えてきた、と言うと格好つけすぎですが、実際にそうなっています。そして、人が足りなくなった時に人材を確保するためには、報酬体系はもちろん、どの技術・レイヤーで入社し、その後のキャリアパスはどうなるのか、ということを明確に示せないと採用はできません。間接的ではありますが、今回の改革には大きな意味があったと思っています。
5. コンサルティングに対する評価と今後の展望
――弊社がお手伝いした中で、あえて評価いただけるとしたらどのような点でしょうか。率直なご感想をお聞かせください。
矢野 氏:
単純なことですが、他社の事例を数多くご紹介いただけたのが勉強になりました。「他社はどうしているのだろう」と迷った際に、事例を提示していただけたのが良かったです。また、当初のヒアリングやサーベイ、研修を通じて、社員一人ひとりの顔と名前を思い浮かべながら制度を考えてくれたのではないかと感じています。私たちのことをしっかり見てくれているという安心感がありました。
佐藤 氏:
システム系のコンサルは数多く経験してきましたが、人事系のコンサルティングを受けるのは初めてでした。正直なところ、最初はもっと理想論ばかりを語るものだと思っていました。しかし、初回から非常に距離が近く、私たちの会社やIT業界の現実に即した内容ばかりだったので、「なぜそこまで分かるのだろう」と驚いたほどです。生々しい議論をしなければならず大変でしたが、そこが印象的でした。
藤本 氏:
私も同じような感想です。決まったパッケージを提示され、それに会社を合わせていくような形を想像していましたが、全く違いました。本当に現場に寄り添っていただき、痛いところもどんどん指摘してくださって、「良いものを作ろう」という熱意が伝わってきました。最初のプレゼンテーションの時から、満場一致で「ぜひお願いしよう」と決まりました。
桑田 氏:
私自身は前任者から引き継いで背景を理解した上で業務に携わっていますが、離職率の低下や採用における効果など、制度改定の成果は明確に現れています。昨年度末に初めての評価を終え、2期目に入りましたが、今後は制度のさらなる浸透と定着が課題です。社員の皆さんに制度をしっかり理解し、受け入れてもらえるよう、引き続き取り組んでいきたいと思います。
――ありがとうございます。最後に、今後の展望についてお伺いできればと思います。NSSとして、また南海電鉄のCIOに就任された中尾社長の視点から、今後の展望についてお聞かせください。
中尾 氏:
制度という外形的な部分は一区切りつき、改善のフェーズに入りました。しかし、質的な面、つまり本当に南海グループを支え、牽引する役割を果たせているかというと、まだまだです。最近社員には、「『所詮NSSだ』と言われるのは悔しい。『NSSがいい』と言ってもらえる会社にしていこう」と話しています。
そのためには、やはり一人ひとりの成長が本当に大事になってきます。個人の成長に加え、会社としてのプロセスやアウトプットの品質へのこだわり、それを大切にする文化を育てていく必要があると考えています。
――会社から社員への期待感を高めていき、人事の観点からも人財を育てていけると良いですね。本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。
※所属・肩書等は 取材当時のものを記載しております。
- 企業名
- 南海システムソリューションズ株式会社
- 発足
- 2022年7月1日
- 資本金
- 2,000万円
- 社員数
- 88名(2025年4月1日現在)
- 事業内容
- 情報システム開発・運用・保守、インターネット関連の情報サービス、運用、保守、その他関連する一切の業務