評価制度の設計や研修の実施といった個別の人事施策にとどまらず、経営の中で人をどのように位置づけ、どのように向き合うのかという問いについて、長い時間をかけて対話を重ねてきた関係である。
同社は建設コンサルタントとして高度な技術力を基盤に中国地方を中心に成長してきた企業だ。
外部環境の変化や会社の成長に伴い、経営のあり方や組織の考え方、人材への向き合い方についても、常に真摯で前向きな変革を進めてきた。
本インタビューでは、そうした経営環境の変遷を振り返りながら、「経営戦略の中で人とどう向き合ってきたのか」を会長の小田秀樹氏(以下、小田氏)と取締役常務執行役員の髙濵繁盛氏(以下、髙濵氏)の言葉からひも解いていく。
1.評価制度を通じて、人への向き合い方を整えていく
――貴社とのお付き合いは2002年頃からだったと記憶しています。会長は当時取締役に就任されて間もないころだったかと思いますが、その頃に私(平康)は前職のコンサルタントとして現在の人事制度の基盤づくりをお手伝いさせていただきました。
小田 氏:
懐かしいですね。 当時は私自身、新任取締役として経営を学び始めたところでした。 会社としてもさらなる成長を目指していたタイミングでもあり、事業をどう広げるのか、組織をどう支えるのか、その都度整理しながら話してきたという感覚です。 振り返ると、私自身の経営者としての成長と、会社の組織としての変化が重なってきたように思います。 その節目節目で、外部の視点として平康さんに関わってもらってきました。セレクションアンドバリエーション(S&V)を立ち上げられたのは2011年でしたでしょうか。
――はい。創業後も変わらずお付き合いを続けていただけたことに、深く感謝しております。そうした中で、人材や評価についてはどのような課題意識をお持ちで、どのように向き合われてきましたか。
小田 氏:
どんな制度や仕組みも、それを実際に動かすのは人です。特に建設コンサルタントは、技術士を中心としたプロフェッショナル集団です。 だからこそ、人への向き合い方を常に重視してきました。 人事戦略・人事制度においても、根幹は「人事としてのポリシー」です。建設コンサルタントとして「従業員に何を期待するのか」「会社として従業員にどのように向き合うのか」を整理することが重要でした。 そして、制度を作ること自体が目的になってしまっては意味がありません。 マネジメントの立場で人事制度をしっかり理解し、活用し、個人の成長を企業の成長につなげていくことこそが本質だったと、今振り返ってみれば思いますね。
――人事戦略策定や人事制度設計だけでなく、評価者研修もしっかり進めるようご指示いただきました。全管理職に対して、隔年で交代しながら、20年以上も研修を続けさせていただいております。そこがまさに人事制度の理解と活用ということでしょうか。
小田 氏:
評価する側が理解し、納得して使えることを重視した結果ですね。 戦略にそって評価として従業員への期待に落とし込む。その考え方をそろえ、運用を丁寧に積み重ねていく。そういったプロセスを20年以上続けてきて、評価や育成が特別な取り組みではなく、日常の経営の一部として受け止められるようになってきたと感じています。 研修では制度の説明にとどまらず、実際の評価場面を振り返りながら判断の考え方を確認してもらっていますね。S&Vには、こうした運用の過程に継続的に関わってもらい、考え方の整理や視点の補足を行ってもらってきました。
髙濵 氏:
評価を「部下の給与額を決めるための嫌な作業」としてとらえるのではなく、経営を実践するためのコミュニケーションツールとして使いこなす、という意識はしっかり根付いているように思います。 評価者研修があたりまえになることで、日々の仕事の中で人を見るための視点として捉える意識が、少しずつ広がっていったのでしょう。 育成も研修だけで完結するものではなく、上司が部下の成長をどう捉え、どのような言葉をかけるのか、その積み重ねが大切だと感じています。そうした意識の変化が、組織全体の雰囲気や行動にも影響してきたのではないでしょうか。
――年に8回連続で実施する経営幹部、管理職研修も、3年にわたってご支援させていただきました。結果として、全管理職に対して、経営を理解していただくことに尽力されたように思います。
小田 氏:
技術のプロフェッショナルとして、技術に閉じこもるのではなく、経営の視点を持ってほしいと思っていました。それは私自身が成長してきた道のりでもあったからです。 技術士資格を取得し、公共に貢献する素晴らしい建築物を築き上げることはとても素晴らしい活動です。 それに加えて、経営の観点を持ち、環境変化に気づき、部下や後輩の育成を行いながら組織力を高めて行ければ、さらに素晴らしいプロフェッショナルの集団になれると信じてきたのです。
――人的資本投資の考え方を、先んじて実践されていたように思います。
2. 技術者集団としての成長と実践
――技術者が中心の組織であるがゆえの難しさもあったのではないでしょうか。
小田 氏:
技術者の集団であることは、当社の強みです。 一方で、自分たちの専門分野の中で判断してしまいがちになる側面もあります。技術的に正しいことと、経営として適切なことは、必ずしも一致しません。 だからこそ、「自分たちだけで決めない」という姿勢を大切にしてきました。組織人事だけでなく、資本政策など経営に関わる重要課題については、まず自分たちで考えたうえで外部の意見を取り入れます。 そうすることで判断材料を増やし、自分たちの考えを逐次整理することを徹底していきました。
――外部専門家をしっかり活用しながら、自社の強みに特化する姿勢は、会長のご活躍を拝見する中でも強く感じた点です。そうした中で、S&Vにはどのような役割を期待されてきたのでしょうか。
小田 氏:
建設コンサルタントとしての活躍とキャリアについて、外部の人事の専門家の立場からシビアな目で変革を示唆してもらいたいと思っていました。その際には、長いお付き合いだからこそ理解していただいている組織風土などを踏まえた提案もお願いしてきました。 そのように関わっていただいたからこそ、どちらに進むべきか、という戦略の段階から相談ができたと思います。私たちの考え方の整理にも貢献いただきました。 たとえば、技術者集団における管理職とは、どのような意識や行動を求められるのか。 また、既存領域だけでの成長がおぼつかないタイミングで、新規領域に進出するために仕組み化すべきポイントはなにか、など。さらにそういった戦略的な方向性を、具体的な制度としてのプロセスや基準に落とし込む作業段階でもしっかり関わっていただきました。 制度を作って終わりではなく、実際の運用を見ながら見直しを重ねてきました。単発ではなく、継続して関わってもらったからこそ、その時々の経営課題に合わせて調整できたのだと思います。
髙濵 氏:
評価者研修についても、制度の説明だけでなく、実際の運用を踏まえて話をしてもらっています。20年以上にわたり継続的に外部の視点から整理してもらえることは、大きな助けになっています。
3.管理部門に対する貢献期待も明確に
――復建調査設計では、管理部門に対する期待感も強く示されているように感じます。その点、意識されてきた点はどういったものでしょうか。
小田 氏:
当社は技術力を強みに成長してきた会社です。設計や調査、測量といった現場の力が事業を支えてきたことは間違いありません。 ただ、会社の規模が大きくなるにつれて、現場任せでは回らない部分が増えてきました。他方、経営管理については直接売上を生むわけではないため、「稼いでいない」と見られがちでした。 そこで、管理部門を単なる事務部門としてではなく、「経営管理本部」として位置づけ直しました。経営全体を俯瞰し、事業や投資、人員配置、グループ経営を含めた意思決定を支える役割を明確にしたのです。
髙濵 氏:
経営管理本部という位置づけになったことで、管理部門としてだけではなく、経営への貢献として何を求められているのかが、以前よりも分かりやすくなったと感じています。 特に、経営環境の変化が激しい中で、M&Aを進めたり、組織再編などを進めたりするなど、単なる事務処理ではなく、経営全体を意識しながら仕事をするという意識が、少しずつ共有されていったように思います。
――御社は長年、非上場という形を取られていますが、経営の考え方とも深く関係しているように感じます。
小田 氏:
上場するかしないかというのは、資金調達の話というより、経営として何を優先するのかという判断です。当社の場合は、短期的な成果よりも、会社をどう持続させていくかを重視してきました。 利益については、【従業員に還元する分(業績賞与)】、【将来に備える分(内部留保)】、【社会に還元する分(納税)】で分配するという三分法を意識して管理してきました。このような経営判断を、外部ステークホルダーの意思に過度に引きずられずに行えるという点で、上場しないという選択は当社に合っていると感じています。 創業以来、人への向き合い方や判断軸は大きく変わっていません。人を育てることには時間と費用がかかります。しかし、それを投資として考えてみるならば、とてもリターンの大きな投資です。 長い目で見た非常に合理的な判断が、人材への投資です。
4.組織の変化を踏まえて次の世代に残したいもの
――復建調査設計として、各社をM&AするタイミングでもPMI(ポストマージャ―インテグレーション)の領域や、統合後の人事制度整備などもお手伝いする機会を何度もいただきました。その時にもやはり人に対する投資、という考えが基軸にあったのでしょうか。
小田 氏:
建設コンサルタントとして同じ専門性を発揮している企業をM&Aする、という場合でも、やはりそれまで培ってきた強みの違いや、組織風土の違いなどがありました。 M&A後も基本的に経営をお任せしていたので、資本の論理だけで展開することもできたかもしれません。 しかし、弊社の強みとしての人とのかかわり方を、しっかり落とし込むことが、それぞれの会社の成長につながるものだと確信していました。 だからこそ、PMIの一環として、人事制度の整備をお願いしました。 いずれも会社も、今や復建調査設計グループとして、大きな利益をもたらしていただいています。
――復建調査設計単体の成長だけでなく、グループとしての成長に貢献させていただけたことは、とてもうれしいことです。お話は尽きないのですが、会長が次の世代に築き上げてほしいもの、あるいは引き継いでほしいと思うものを伺えますでしょうか。
小田 氏:
最も重要なことは、次の経営層が自分の頭で考え、判断することです。だから現経営陣としては、そのような自主性や自律性を発揮できる状況を残すことが大切だと思っています。 2026年に弊社は80周年を迎えます。今もそうですが、さらなる変化が起こるでしょう。 そんな中で、その時々の経営陣が環境変化を自分事として理解し、経営戦略に織り込んでもらいたい。私たち建設コンサルタントの最大の経営資源である、人に対してどのように向き合うのかを、考えてもらえたらと思います。 引き継いでいきたいのは、真摯に人に向き合う姿勢です。経営の中で人をどう位置づけるのか。その姿勢が次の世代にも伝わっていけば、わが社はさらに成長し続けられる。 強く、そう信じています。
※所属・肩書等は 取材当時のものを記載しております。
- 企業名
- 復建調査設計株式会社様
- 発足
- 1946年12月1日
- 資本金
- 300百万円
- 社員数
- 722人(2025年4月30日現在)
- 事業内容
- 総合建設コンサルティング事業