ちゃんと低い評価をつけるリーダーの覚悟が、組織を自律的に成長させる

平康 慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表・人事コンサルタント)

あなたは人事評価をつける側の人でしょうか。

だとすると、年度末の人事評価のタイミングが近づいてきて、ちょっと憂鬱になっていませんか?

正直な評価をつけたいけれど、高い評価ならともかく、低い評価をつけるわけにはなぁ……
来期も一緒に仕事をするわけだし、やる気をなくしたり、すねられても困るし。
それに、低い評価に対して反論されてしまったら、説得も面倒だしな……
でも、無難な評価ばかりつけると、二次評価者の部長に、管理職として不適格だと思われたりしないかな……
現場を何もわかっていない人事部が、ほんと、こんな仕組みを作って面倒だよな。
まあ、次頑張ってもらうということで、とりあえず標準評価にしとこう。

こんなパターンの思考。あるあるなんですよね。

でも、人事コンサルタントとして30年間見てきた結果、この判断をするリーダー、そしてそれを許容する組織で、とんでもない事態がゆっくり進行していくことがわかっています。

優秀な人の離職?
たしかに、今どきならそれもあります。
けれども、10年前だったら、簡単に転職する人はまだあまりいませんでした。
そんな組織で起きてきたことは何か。

それは、優秀な人がダメ人間になっていくことです。

優秀だったはずのピカピカの経歴、高い意欲、素晴らしい行動量が、「無難な評価」によってどんどん消えていったのです。
「どうせやってもやらなくても変わらない」
「結果を出したところでちょっと褒められるだけだしな」
そうして、優秀な20代社員が、無難な30代社員になり、ポストにつけない40代社員になり、お荷物の50代社員になっていったのです。

今回はそうなってしまう、組織の構造を解きほぐしてみましょう。


目次

「無難な評価」を選ぶと、何が起きるのか

では、ここから構造を解きほぐします。
評価が「無難」になって、標準評価に寄ることで、何が起きるのか。
その結果部下の意識の中で「うちの上司は無難な評価しかしない」と判断がされるだけではありません。

組織が社員に対して出しているメッセージが、以下のように伝わっていくのです。
• 何をしてもあなたを高く評価する気はない
• 何が足りないのかを説明するのが面倒だ
• どこを伸ばせばいいのかいちいち説明したくない

皆さんも、自分の評価が毎年ずっと標準評価ばかりだったら、このように考えてしまうのもわかりますよね。

「やったら報われる」「工夫したら評価される」という前提が、崩れてしまうのです。
その結果として、優秀だった人たちの行動が、ゆっくりと変わってしまうのです。


優秀者がダメになるとき、最初に起きること

優秀者がダメになる、といっても、いきなり手を抜くわけではありません。
むしろ最初は、本人なりに頑張ろうとします。

でも、評価がずっと無難だと、あるタイミングから切り替わります。

「頑張っても標準」
「頑張らなくても標準」

数年間の評価でこれらが証明されてしまうと、優秀な人ほど、合理的にこう考えます。

  • 余計なことはやらない
  • 波風が立つことはやらない
  • 余分な仕事は引き受けない
  • 目立つ改善提案はしない
  • 失敗リスクのある挑戦はしない

結果として、優秀者の行動量全体が減るのではなく、「成果に結びつく行動」が減ってゆくのです。ちなみにその代わりに増えるのが、社内政治や、やってもやらなくても変わらないどうでもいい仕事などです。
これが、後から見ると「ダメになった」ように見える正体です。


「評価が無難な組織」は、育成が止まる

そして評価が無難だと、部下の育成が止まります。
なぜなら、育成に必要な材料が評価の中に入らなくなるからです。

育成に必要なのは、少なくともこの3つです。

  • 期待水準(基準)
  • 現状(事実)
  • ギャップ(どこが足りないか)

ところが無難な評価では、ギャップが語られません。
語られないギャップは、次の行動に変換されません。
次の行動に変換されない以上、来期も同じ状態が続きます。

そして何よりまずいのは、本人が「改善点がない」と誤解しやすいことです。
「標準=問題なし」と受け取る人は多いのです。
でも、組織としては「期待水準に達していないけれど、揉めたくないから言わない」という状態だったりする。

このズレが続くと、本人の成長が止まり、上司の指導も止まり、組織全体の学習も止まります。


低い評価をつけられない理由は「説明」を避けたいから

ではなぜギャップを説明するための低い評価がつかないのでしょう。

これは評価をしたことがある人ならわかりますよね。

低い評価をつけられない理由は、優しさでも配慮でもありません。
多くの場合は、説明を避けたいからです。

低い評価をつけると、部下から必ず問われる質もがあります。

  • なぜ低いのか
  • どの事実に基づくのか
  • 基準は何か
  • では何をどう改善すればよいのか
  • 上司として何を支援するのか

これに答えるには準備が必要です。
日常的に観察し、基準を言語化し、記録し、面談で合意する。
つまり、評価は「期末の作業」ではなく「期中のマネジメント」になります。

多くの管理職が低評価を避けるのは、この負荷があるからです。
そして、組織がそれを許してしまう。

結果として、「標準評価に逃げること」が組織の文化になります。


では、低い評価を「成長につなげる」ためにすべきこと

ではどうすれば、このような評価運用にならないようにできるのか。

その結論はシンプルです。
低い評価をつけるべきときに、つける。
ただし、その評価を成長につなげるパターンをしっかり評価者に落とし込むことです。

私は人事評価制度設計の、特にプロセス設計において、以下の5項目を設定します。

低評価を成長につなげる5点セット

  1. ファクトの明確化:観察可能な行動・成果(いつ、何が、どうだったか)
  2. 評価基準の明示:期待水準(どの状態なら標準/上位なのか)
  3. ギャップの具体化:足りない点は1〜2点に絞る(全部は言わない)
  4. 次のアクションの明示:次月/次四半期でやることを具体化する(誰が、いつまでに)
  5. 1on1などのフィードバック・フィードフォワードプロセス:上司が提供する支援を明確にする(機会、時間、レビュー、同行など)

この5項目をプロセスでそろえる、評価は結果ではなく、次のアクションにつながるようになります。
逆に、評価結果だけが先に出ると、面談は感情の処理になり、成長の話ができなくなります。

※ちなみにプロセス重視のために、HRテックを導入することも有効だったりします。


組織の自律性とは何か

私がここで言いたい「自律的に成長する組織」とは、精神論ではありません。

  • 組織が求める基準が明確で
  • その基準と現状とのギャップが日常的に確認され
  • 次の行動が合意され
  • 上司が必要な支援を出し
  • 次の評価で改善が検証される

このループが回っている状態です。

このループが回ると、社員は「次に何をすべきか」を自分で選べるようになります。
上司も「何を指導すべきか」が明確になります。
結果として、組織が学習する速度が上がる。

そして、このループを止める最大の要因が「無難な評価」です。
だから、低い評価をつける覚悟が必要になるのです。


評価者研修で補うこともできる

ここまで読んで、「理屈は分かるが、現場の管理職ができるのか不安だ」と感じた方もいると思います。
実際、多くの会社での人事評価のボトルネックは制度ではなく、評価者の運用です。

セレクションアンドバリエーションでは、評価を厳しくする研修ではなく、低い評価を成長につなげるための評価者研修を提供しています。

  • 事実/基準/ギャップ/次の行動/支援の「書き方」をテンプレ化
  • 評価コメントの添削(実データを匿名化して使用可)
  • 面談ロールプレイ(反論が出たときの進め方まで扱います)
  • 二次評価者(部長層)向けのキャリブレーションの進め方もセットで整備

「低い評価をつけられない」状態を、個人の勇気や性格の問題にせず、運用として再現できる状態にします。
ご関心があれば、評価者研修の概要をご案内しますので、まずは現状(評価分布、面談運用、評価コメントの状況)について問い合わせ欄に記入してください。

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