飲食店経営者が押さえておきたいマネジメントポイント
「人手不足が慢性化していて、どうしてもスタッフの業務量が多くなってしまう」
「コロナ禍で店を畳む同業他社も多いし、次は自分の店の番かと不安・・・」
飲食業界を取り巻く環境は、年々厳しさを増しています。
消費者が求める価値が多様化する中、求められる基準に対応できない飲食店は撤退を迫られてしまいます。
ただ閉店を避けるためではなく、売上を伸ばし続けるためにも、飲食店は現在起きている変化を的確に捉え、将来に向けた施策の一つとして人事制度を見直すことが有効です
人事制度設計を専門とするセレクションアンドバリエーションは、これまで居酒屋チェーン店をはじめとする飲食業界を多数ご支援してきました。
このページでは、人事コンサルタントの視点から、飲食業界が現在どのような環境変化に直面し、今後どのようにすれば継続的に利益を出し、成長していけるのかをまとめています。
INDEX
外食産業の推移
外食産業の売上は、一世帯あたりの消費支出や法人の交際費により左右されます。2020年から広まったCOVID-19の影響により、飲食店ではお酒の提供制限、時短営業がやむを得ない状況となり、今もなお、厳しい環境の中、多くの飲食店がご尽力されています。
過去の外食産業の売上推移を確認すると、2011年に東日本大震災による直接的な被害や外食の自粛ムード、原発事故による風評被害により、一時売上は落ち込んだものの、その後は政府のデフレ脱却を目指した景気対策などによって2019年まで右肩上がりに市場は推移してきました。
そこで最初に、「なぜこのように市場が拡大したのか?」「COVID-19後も市場は拡大するのか?」という観点から、将来予測も含め、外部市場との関係を確認していきます。
飲食業界の課題
飲食業界では開店3年以内の倒産は3割、10年以上続くお店は1割にも満たず、非常に厳しい業界です。売り手や買い手の志向も変化し、ここ10年で大きな変革を求められてきました。それらの要因について飲食業界を取り巻く外部要因を整理してみましょう。
⇒参入障壁の低さ
このような厳しい環境を招いている理由の一つに、参入障壁の低さが挙げられます。
アメリカでは、ニューヨークをはじめとした都市において飲食店における酒類販売に関するリカーライセンスのルールがあり、エリアで出店できる数が限定されています。ベトナムのホーチミンでも、繁華街ではエリア内で飲食店の営業許可の発行数が決まっており、どこかが潰れるか、営業許可ごとM&Aをしなければ新規開業ができません。
しかし、諸外国と比べて日本では、参入障壁が低く、少額の資本で開店できることから競合他社も後を立たないのが現状です。
⇒代替商品の脅威
代替商品も飲食業界に厳しい状況をもたらしている一因だと考えられます。
現在では共働き世帯が一般的となり、10年前に比べると社会に出て働く女性の人数は約400万人も増加しています。また、人員動態も大きく変化しており、高齢化比率は30%を超えています。
このように社会構造が大きく変化した状況下で、中食の需要は顕著に伸びており、コンビニやドラッグストアも冷凍食品や惣菜の品揃えを強化することで売上を増加させています。
共働き世代や、高齢者のニーズを獲得するためには外食産業だけでなく、内食や中食といった代替商品の需要も獲得していくことが必要となります。
⇒買い手の脅威
飲食業界において、買い手にはどのような特徴があるのでしょうか。
顧客が飲食店を調べる際の情報源はインターネットが主流です。ぐるなびや食べログなどの飲食サイトを使用した予約は直近5年で2倍に伸長しています。SNSや食べログなどの口コミ情報も、飲食店の売上に直結する非常に重要なポイントです。
また、顧客の約8割はリピート来店であることから、新規顧客への宣伝だけでなく、お店の雰囲気やサービスレベルも強化する必要があります。また、昨今の消費者は低価格志向が強くなったと言われる一方で、安さだけを売りものにして商品やサービスをないがしろにしたお店は淘汰されています。
既存顧客はお店の雰囲気やサービスなどの総合的な評価を踏まえてリピート顧客となるのです。店頭販促や店舗オペレーションのレベル向上を行うためにも従業員の育成は必要不可欠となるでしょう。
⇒売り手の脅威
飲食業界にとって、売り手の脅威とは何なのでしょうか。
外食業界の平均的な食材費に占める割合として最も多い品目は「加工食品等(半加工品、製品」で33%、ついで「水産物(生鮮・冷蔵・冷凍)」で28%、「畜産物(生鮮、冷蔵、冷凍)」で18%となっており、これらが全体の約8割を占めています。今までは卸売業者からの販売がメインとでしたが、2017年に政府、与党からの要請もあり、「全農改革」の一貫として農家の収益を増やすため、卸売に頼らない直売化が進んでいます。
顧客側もインターネットによる情報開示によって産地や安全性、生産者の顔までを意識する時代となり、今後、生産現場から質の高い商品を仕入れることは重要なポイントとなります。
大手チェーンではワタミやモスバーガーが生鮮野菜の安定した調達を目指し、農業生産法人も立ち上げています。このような動きも、売り手の変化を如実に表すものといってもよいでしょう。
成長し続ける店舗の特徴
前述の外部変化も踏まえ、消費者の志向は、安ければよいという「低価格志向」から、サービスなども重視する「価値志向」へ変化していると言えます。確かに、低価格だけでは多様化する消費者のニーズには対応できません。
外食産業全体を活性化させるためには、従来の価値意識に従ってただ商品やサービスを提供するのではなく、自由な発想による新しい価値の創造が必要不可欠であると考えられます。
では、このような変化を伴う環境下で、10年以上成長し続けているお店にはどのような特徴があるのでしょうか。
後述で、その詳細を紐解いていきましょう。
一般的に成長し続けているお店は立地やリピート(コストパフォーマンスやフレンドリーサービス)、収益性(食材費や人件費の適正さ)が整っています。
⇒立地が良い
飲食店のうち、約4割が現在の立地に何かしらの不満を抱えています。
不満の内容として、「通行量が少ない」ことや、「視認性が悪い」こと、「コンセプトと立地があっていない」ことが挙げられます。
例えば、ゆっくり食事を楽しむような高価格帯のコース料理を提供するお店の場合、学生が多く住むようなエリアに出店しても固定客は見込めないでしょう。反対に、高級住宅が多いエリアであれば、ランチをゆっくり楽しみたい主婦層に受け入れられる可能性が高いと考えられます。
このように、自店のコンセプトに合わせて、いかに集客が見込める場所に出店するかが“立地が良いお店”の条件となります。
⇒リピート率が高い
飲食店にとって、新規の顧客を開拓することは非常に大切ですが、それ以上に重要なのがリピーター作りです。
リピーターになってくれるということは、お客様がお店に魅力を感じ、また来訪したいと思ってくれているということです。人は、本当に良いと感じたお店については誰かに教えたくもなるし、連れて行きたくもなります。さらにリピーターの中には、SNSで情報を発信してくれる人もいるでしょう。リピーターを大切にすることで、飲食店にとっては良いスパイラルが生まれます。
そして、来店されたお客様へは“価値”に見合った商品提供を行うことが重要です。例えば、牛丼チェーンの吉野家では“うまい、はやい、やすい”をコンセプトに掲げ、お客様の“価値”に見合った“価格サービス”を提供することで、圧倒的人気を確立しました。
店舗が成長し続けるためには、コンセプトを明確にし、リピート率を高めていくサイクルを回すことが必要となります。
⇒収益性が高いお店の特徴
経済産業省によれば、飲食店全体の営業利益率は平均8.6%と報告されていますが、中には営業利益率が30%を超えている飲食店も存在します。もちろん業態によって高低の差は出るのですが、10年以上続いているお店は収益性の観点で見ても非常に高い数値となっています。収益性を上げるためには、食材費を抑える、利益率の高いメニューをつくる、人件費を抑える、家賃を抑えるなどが考えられます。ただし、一度選択した立地や仕入先などは変更しづらいこともあると思います。
そこで、セレクションアンドバリエーションでは“ヒト”の活躍に焦点をあて、少ない資源の投資でいかに成果を大きくするかを考えます。
収益性を高めるための3つの施策
セレクションアンドバリエーションにご相談される企業様の共通の悩みとして、「各店舗の基準が明確になっていない」、「優秀な人材が離職してしまう」と声をよく耳にします。
(よくあるご相談内容)
こうした悩みを解決するためには3つの施策が考えられます。以下、一つずつ確認していきましょう。
①採用手順や立上後の教育体制を整えることでLabor costsを下げる
Lavor costsを下げるためには、最初に採用コストや立上コストの適正化を行います。
例えば、採用基準の目的や要件を明確にし、どの観点で採用選考に注力するのかを確認します。
次に、採用後、何をいつまでにどのくらい教育すべきかを明確に設定します。店舗オペレーションの習得は基本的には先輩社員が後輩社員を教えるOJTがメインとなりますが、下記のような基準がなければダラダラと教育を行ってしまい、立ち上げコストが大きくかかってしまいます。
また、店舗全体のレベルを上げるためには、階層別の教育体系を整えておくことも必要です。階層とは、「見習い」や「一般」「副店長」「店長」といった各従業員の役職や立場のことです。この階層に応じて適切な研修内容を実施していきます。
例えば、「見習い」なら企業理念(コンセプト)やオペレーションの実務、「一般」なら飲食店の基礎知識、コミュニケーション研修、「副店長」ではコーチングや売上日報の作成、「店長」では部下への接し方などを踏まえた「フィードバック研修」などを行います。
このように設定することで、個人のスキルアップにとどまらず、店舗全体のレベルを底上げすることにも繋がっていきます。 このような特性から、階層別研修は店舗および企業の「底上げ教育」とも呼ばれています。
②シフト管理・作業割当による効率化を図る
シフト・作業管理に関しては、まず適正な人員数を確認していくことが必要です。
人員数を確認するためには、大きく2つの方法があります。「客数から検討する方法」と「売上から検討する方法」です。
③キャリアパスを明確にし、計画的育成を実施する
3つ目は、人材不足に対する解決策です。
セレクションアンドバリエーションでご支援させていただくケースの中でも、一番多い問題が「人材不足」です。
このような問題には大きく2つのアプローチを行います。「人材育成の観点からのアプローチ」、「労働条件の観点からのアプローチ」です。
人のモチベーションを高める要因には、不満足に働きかける要因(衛生要因)と、満足に働きかける要因(動機づけ要因)があるといわれます。人材育成は満足に働きかけ、労働条件は不満足に働きかけます。どちらか片方ではなく、両方に働きかけることで人材流出を防ぎ、優秀な人材を育成することができるのです。
人材育成や労働条件は店舗ごとに内容は異なりますが、キャリアパスの整備という観点では共通している部分もあると考えます。
ここで、成功しているお店の仕組みを確認してみましょう。
これは3店舗以上を経営されている方に是非参考にしていただきたい、キャリアパスです。店長ポジションだけでなく、自店を持つための独立支援や店舗をまとめるマネージャーポジションを用意することで将来的なキャリアが明確となります。
また、これらの制度を作成するには評価や報酬、教育と連動した制度を作成していくことがポイントです。
飲食店マネジメントに関するお問い合わせ
本ページでは、飲食業界を取り巻く環境や、収益性を高めるための飲食店マネジメントにおける施策をお伝えしました。
セレクションアンドバリエーションでは、ご紹介した内容に加えて、経営をするうえで最も重要なことは経営者の皆様の「志」だと考えています。
社会にどのような影響を与えていきたいのか。
1年後、20年後にどのような会社にしたいのか。
そのためにどのような社風にするのか。
その「志」こそが、従業員の皆様ひいては顧客の皆様を引きつけるものであり、マネジメントにおいて必要不可欠な要素だと思っています。
セレクションアンドバリエーションは、飲食店を含む様々な企業様に対して「本気の変革を実現する人事コンサルタント」として、経営資源であるヒトを活かす人事制度設計をご支援し、皆様の熱い思いをお手伝いします。
「人事制度を整えたいけどやり方が分からない」
そんなお悩みをお持ちの方はぜひ一度お気軽に弊社にご相談ください。
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セレクションアンドバリエーション株式会社 代表の平康慶浩(ひらやすよしひろ)による、日本経済新聞社サイトNIKKEI STYLE連載でも企業における人事戦略について言及しています。
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