ジョブ型人事制度への関心が高まる一方で残る不安
近年、多くの企業で「ジョブ型人事制度」への関心が高まっています。
背景には、事業環境の変化や人材の多様化、成果や役割に基づく処遇への要請があります。
一方で、現場や人事担当者の方からは、次のような声も少なくありません。
- 「ジョブ型にすると昇給がなくなるのではないか」
- 「社員のモチベーションが下がらないか不安だ」
こうした不安の根底にあるのは、「ジョブ型=給与が固定される制度」というイメージです。
しかし、この理解は必ずしも正しいものではありません。問題はジョブ型そのものではなく、昇給をどのように設計するかまで踏み込めていない制度設計にあります。
メンバーシップ型とジョブ型の決定的な違い
従来のメンバーシップ型人事制度では、年齢や勤続といった年功的要素が昇給に組み込まれてきました。等級が変わらなくても、毎年一定額以上の昇給が発生する設計は、その典型例です。
一方、ジョブ型人事制度の基本思想は、「職務に見合った処遇を行う」ことにあります。原則として、より重い責任や高度な役割を担わなければ、大きな処遇向上は起こりません。この点だけを見ると、「昇給がなくなる制度」のように見えてしまいます。
しかし重要なのは、ジョブ型が昇給を否定しているわけではないという点です。
ジョブ型では、昇給を「自動的に起こるもの」から「意図的に設計するもの」へと切り替える必要があります。
昇給のあるジョブ型を支える給与テーブル設計
昇給のあるジョブ型人事制度を実現するための鍵は、職務等級に基づく給与テーブル設計にあります。特に重要なのが、ポリシーライン(中間値)と、その上下幅をどのように設計するかです。
ポリシーラインとは、業界水準や競合との比較を踏まえ、自社がどの水準で職務給を設定するのかを示す基準線です。これは単なる目安ではなく、「この等級における妥当な処遇水準」を示す、会社からの明確なメッセージでもあります。
このポリシーラインを中心に上下幅を設けることで、同一等級内での昇給・降給が可能になります。これにより、「等級が上がらなければ給与が一切動かない」という硬直的な制度を避けることができます。

職務価値を守るための重要なルール
ただし、ここには一つ重要なルールがあります。
下位等級の上限額が、上位等級のポリシーラインを上回ってはならないという点です。
このルールが崩れると、職務の価値序列が曖昧になり、上位の職務を目指す意味が薄れてしまいます。その結果、ジョブ型人事制度として期待される効果は大きく損なわれてしまいます。
- 昇給マトリクスが生み出す行動変容
さらに、昇給のあるジョブ型を機能させるためには、同一等級内での昇給差をどのようにつけるかも重要です。そこで有効なのが、給与レンジを複数のゾーンに分け、ゾーンと個人評価を組み合わせて昇給率を決めるマトリクス型の設計です。
この設計では、ポリシーライン未満のゾーンでは比較的昇給しやすく、ポリシーラインを超えると昇給率が抑えられます。これにより、社員には次のようなメッセージが自然に伝わります。
- 「今の職務の中でも、成果を出せば昇給はある」
- 「ただし、より大きな処遇向上を望むなら、次の職務・等級に挑戦してほしい」
これは単なる給与調整の仕組みではありません。
昇給と昇格を意図的につなぎ、キャリアアップへの行動を促す仕組みです。

ジョブ型は「冷たい制度」ではない
ジョブ型人事制度は、「シビア」「冷たい」と受け取られがちです。しかし、昇給の設計まで含めて丁寧に制度を組み立てることで、むしろ処遇の納得感は高まります。
重要なのは、「ジョブ型か、メンバーシップ型か」という二択ではありません。
自社の戦略や人材像に照らしながら、職務・評価・昇給・昇格を一体で設計すること。それこそが、「昇給のあるジョブ型総合人事制度」という現実的な選択肢です。
制度設計は「段階導入」からでも始められます
ジョブ型人事制度は、正しく設計・運用しなければ、期待した効果を得られないケースも少なくありません。一方で、自社の実情を踏まえて段階的に取り入れることで、人材の成長や処遇の納得感につながる制度とすることも可能です。
- 「どこから着手すべきか分からない」
- 「そもそも導入すべきかどうかを含めて整理したい」
といった初期段階でのご相談も歓迎しております。
ご関心がございましたら、お気軽にお問い合わせください。


