平康 慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表・人事コンサルタント)
あなたの「理想のリーダー」は誰ですか?
あなたの「理想のリーダー」は誰ですか?
この質問を、私は社会人向けの経営大学院で毎年投げかけています。
(そういえば登壇しはじめてかれこれ9年目になりました。)
そうすると、一昨年までは、スポーツチームの名監督、歴史上の偉人、著名経営者の名前が並んだんですね。
ところが昨年あたりから、様子が変わってきました。
そして先日の授業では、受講生の9割以上が「自社の上司」を理想のリーダーとして挙げたのです。
驚きとともに私は、日本のビジネスの現場で、マネジメントのあり方が静かに、しかし確実に変わってきた証拠だと考えました。
なぜ、上司が理想のリーダーなのか?
そのことをさらに深堀していくと、あるキーワードが出てきました。
伴走
1on1が当たり前になる中で、寄り添ってくれる上司が、理想になりつある、という現実です。
1on1などのコミュニケーション施策を推奨し、そのためのコミュニケーション研修や評価者研修を実践している人事コンサルタントとして、とても喜ばしい傾向ではあります。
けれども、喜んでばかりもいられない、とも考えました。
「伴走してくれる良い上司」と「組織を前に進められるリーダー」は、同じではないからです。
今回はそんなお話を書いてみます。
なぜ「上司」が理想になったのか
まず、背景にあるファクトを押さえましょう。
コロナ禍を経て、上司と部下の接点が変わりました。
パーソル総合研究所の調査によれば、部下との1on1・定期面談の制度化率は59.3%に達しています。
また、リクルートマネジメントソリューションズの2024年調査では、管理職向けのコーチング力向上施策を導入している企業が68.8%。
導入の目的は「社員の主体性・自律性の向上」が中心で、効果を実感している企業も多いと報告されています。
つまり、上司が部下に「伴走」する機会が、制度として増えた。
かつての「指示を出して成果を待つ」スタイルから、「対話しながら一緒に考える」スタイルへ。
このシフトが、理想のリーダー像を「遠い偉人」から「身近な上司」へと引き寄せたのでしょう。
企業の学習投資も回復基調です。
厚生労働省の令和6年度「能力開発基本調査」では、教育訓練費用を支出した企業が54.9%。
産労総合研究所の調査でも、従業員1人あたりの教育研修費用が3年連続で増加し、コロナ禍以前の水準に近づいています。
企業が「人に投資する」姿勢を取り戻しつつある中で、管理職の学び直しも進んでいる。
受講生が「自分の上司」を理想に挙げる背景には、こうした構造的な変化があります。
伴走だけでは足りない理由
ここからが本題です。
「伴走が増えた」ことと「リーダーとして十分か」は、別の問いです。
リーダーシップ研究の歴史を振り返ると、経営大学院でよく教えられる「コンティンジェンシー理論」(状況に応じて最適なリーダー行動は変わる)は、1960~70年代に登場しました。
これは今でも重要な基礎です。
環境変化を押さえながら、部下一人一人の適正を把握し、それぞれに対して適切な行動をとっていく。
まさに、管理職としての基本動作を教えてくれるフレームワークです。
しかし、この時点で学びが止まると、リーダーシップが「状況に合わせてうまくやる技術」に収束してしまいます。
コンティンジェンシー理論は、持続的変化の時代にはとても有効に機能します。
一方で、破壊的変化の時代においては、環境変化と部下一人一人の状況に「合わせるだけ」では足りないのです。
リーダーシップについてのその後の研究でも、焦点は「上司と部下の関係性そのもの」へ移り(LMX理論など)、さらに1980〜90年代には「変革型リーダーシップ」が主流になりました。
変革型とは、簡単に言えば「状況に合わせる」のではなく「状況を動かす」リーダーシップです。
変革型リーダーシップは、よく「4つの要素」で整理されます。
- 確固たる影響力:信頼と尊敬を得る。言行一致。覚悟を示す
- 意味に基づく動機づけ:ビジョンや意味づけで人を動かす。「なぜやるのか」を語れる
- 知的刺激:前提を問い直し、学習と挑戦を促す。「本当にそれでいいのか」と揺さぶる
- 個別配慮:育成、伴走、一人ひとりに合わせた支援
ここで重要なのは、今の日本企業が強化している「1on1」「コーチング」は、4番目の「個別的配慮」に寄りやすい、という点です。
もちろん4番目の個別配慮がそもそも弱い職場は問題外です。
対話がなく、支援もない環境では人は育たないのですから。
だからコンティンジェンシー理論に基づく伴走の強化そのものはとても正しい方向性です。
しかし、この部分だけが突出すると、リーダーは「優しい伴走者」で止まってしまいます。
2026年以降に求められるのは、4番を土台にしつつ、2番(意味づけ)と3番(知的刺激)を乗せられるかどうか。
「話を聞いてくれる」から「このチームは何のために存在するのかを言語化できる」へ。
「寄り添ってくれる」から「前提を揺さぶり、学びと挑戦を起こせる」へ。
この段差を越えられる上司が、理想の「上司」から、理想の「リーダー」になります。
神話に逃げない
もうひとつ、冷静に考えなければいけない点があります。
それは、リーダーそのものに頼りすぎないこと。
これをリーダーシップ神話に逃げる、という言い方をしてもいいかもしれません。
そもそも、成功した組織の成果は、制度、チームの相互作用、市場環境など、無数の要因が絡み合って生まれます。
にもかかわらず、私たちはつい「リーダーの手柄(あるいは失敗)」として物語化してしまう。
この傾向は「リーダーシップ現総論(romance of leadership)」として研究されており、環境変化が大きい局面ほどリーダーへの帰属が強まることも指摘されています。
だから私は、「変革型リーダーこそ正義」とは言いません。
変革型リーダーシップは強い。
しかし強いがゆえに、カリスマ依存や暴走のリスクも抱えます。
リーダー個人の魅力で押し切るのではなく、目標設定、評価制度、会議体、学習の仕組みといった組織設計とセットで機能させることが不可欠なのです。
日本のリーダーは成長している。次の問いはこれだ
社会人大学院に通おうとする、先進的な受講生たちが理想のリーダーとして「身近な上司」を挙げるようになったのは、リーダーシップが「偉人の物語」から「日常の実践」へ降りてきた証拠だと思っています。
1on1やコーチングが広がり、企業の学習投資が回復し、管理職が学び直している。
統計も、調査も、それを裏側から支えています。
そして「理想のリーダーは誰か?」と聞いたときに、受講生が遠い世界の英雄ではなく、明日の会議で隣にいる上司を挙げる。
これは、とても希望が持てる状況です。
その上で、次に問うべきことがあります。
あなたが理想だと感じているその上司は、以下の3つを満たしているでしょうか。
チェック1:意味づけ 「なぜこの仕事をするのか」「このチームはどこへ向かうのか」を、自分の言葉で語れているか。
チェック2:知的刺激 「本当にそれでいいのか」「別のやり方はないか」と、前提を問い直す問いを投げかけているか。
チェック3:言行一致 言っていることとやっていることが一致しているか。厳しい場面で覚悟を見せているか。
伴走(個別配慮)は、すでに多くの上司が身につけ始めています。
その土台の上に、この3つが乗ったとき、理想の上司は理想のリーダーになります。
経営大学院で教えるべきものも、ここから一段、更新されるべきだと考えています。
状況に合わせるだけではなく、状況を動かす。
神話に逃げず、仕組みに落とす。
私は、2026年の日本の現場には、その更新を受け止められるだけの「成長の実感」が、もう出てきていると見ています。
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