山田沙樹(セレクションアンドバリエーション株式会社 シニアコンサルタント・人事コンサルタント/国家資格 公認心理師保有)
新任管理職が抱える「二律背反的な不安」の正体
プレイヤーからマネジメントへの役割転換で起きること
人事が今すぐ取り組める新任管理職の支援策
「昇進は嬉しいけど、役割を全うできるか不安」
多くの場合、管理職への昇進は、これまでの成果が認められた証です。
それにもかかわらず、ALL DIFFERENT株式会社(2024年)の調査によれば、管理職の97.3%が何らかの悩みを抱えていると報告されています。
さらに、管理職就任1~3年目にあたる新任の段階では「自身の判断力」に課題を感じる割合が、4年目以上の管理職や幹部候補と比較して2倍以上高い傾向にあります。
「役割を全うできるか不安」の正体は、「何を求められているのかが分からない」という役割の曖昧さにあることが多いです。
昇進の嬉しさと、役割への不確実性が同居する——
この二律背反こそが、新任管理職が最初につまずく根本的な構造です。
上司にも「実は何をしたら良いのか分かっていない」と打ち明けにくい状況が続くと、孤独感は深まり、パフォーマンスにも影響が出始めます。
プレイヤーからマネジメントへの役割転換

新任管理職がつまずく最大の要因の一つが、「個人で成果を出す人」から「組織として成果をつくる人」への役割転換です。
プレイヤー時代に積み上げた成功体験や仕事の進め方は、管理職になった途端に通用しなくなることがあります。
「自分でやった方が早い」という感覚は、プレイヤー意識の残存から生まれます。
しかし、この思考のまま行動すると、部下の育成機会が奪われ、チーム全体の能力開発が停滞します。
この転換を意識的に行えるかどうかが、管理職としての第一の分岐点となります。
本人への期待役割伝達は必要不可欠
「管理職になったのだから、何をすべきかは自分で考えてほしい」
——そう思っている上司や人事担当者は少なくないかもしれません。
しかし、期待役割が明示されないまま、役職が就けられることこそ、新任管理職の不安を長引かせる要因になっているかもしれません。
着任時に「何を優先すべきか」「どのような成果を期待されているか」が言語化・伝達されていれば、本人は自分が何をすればよいのか納得でき、安心して行動を起こせます。
昇進辞令とあわせて、「人事からの役割定義書を用いた役割伝達」や「上司との期待役割のすり合わせ面談」を組み込む仕組みは、シンプルながら非常に効果的です。
新任管理職に期待する3つの行動
新任管理職は年度スタートにさまざまな不安を抱えています。
そんな中でも、新任管理職に着任直後に意識してほしい行動が3つあります。
この3つさえ意識できれば、不安を抱えながらも着実にチームに貢献できる管理職としての第一歩を踏み出せます。
①チームの状況を把握すること
着任直後は、まずメンバー一人ひとりの強み・課題・モチベーション状態を短期間で把握することが最優先事項です。業務の進捗状況だけでなく、各自が何に意欲を感じ、どんなことに悩んでいるかを知ることが、マネジメントの出発点となります。
チームの実情を正確に理解しないまま指示を出すことは、メンバーの信頼を損なうリスクにもつながります。
②部下との1on1を早期に設定すること
着任後できるだけ早い段階で、全メンバーとの1on1を設定しましょう。
関係構築と情報収集を同時に行える1on1は、新任管理職にとって最もコストパフォーマンスの高いアクションです。
最初の1on1では業務の課題確認だけでなく、メンバーが仕事において大切にしていることやキャリアの展望にも耳を傾けることで、信頼関係の土台を早期に築けます。
③上司・人事と役割認識をすり合わせること
自分がどのような役割を期待されているかについて、上司や人事と早期にすり合わせる機会を持つことが重要です。
「自分はこう理解している」という認識を共有し、ずれがあれば修正することで、空回りのないスタートを切れます。
就任後1〜2週間以内に設定することが理想であり、定期的に振り返る場を設けることでさらに効果的に機能します。
新任管理職の早期活躍に向けて、人事がやるべき施策

新任管理職の不安を放置すると、メンバーのエンゲージメント低下・本人およびメンバーの離職・組織パフォーマンスの悪化を招いてしまいます。
この悪循環を防ぐために、人事が講じるべき施策は大きく3つです。
①着任前後に「期待役割説明」の場を設けること
昇進辞令を出すタイミングに合わせて、上司と本人が期待役割を確認・共有する場を制度として組み込みましょう。「役割定義書」を活用した人事からの説明と、上司との1on1によるすり合わせを組み合わせることで、本人が迷わず行動できる環境をつくれます。
この場の設定は、着任直後の不安を大幅に軽減するだけでなく、管理職としての動き出しを早める効果もあります。
②管理職同士の対話機会を設けること
新任管理職が感じる孤独感は、「同じ悩みを抱える仲間がいると知らない」ことから生じることも少なくありません。同期の管理職や先輩管理職が集まる定期的な対話の場を設けることで、悩みの共有と相互学習が生まれます。
こうした場は研修とは異なり、「実践知を交換する」場として機能するため、現場に直結した学びを得やすい特徴があります。
③現場任せにせず、定期的な研修機会も提供すること
管理職同士で実践知を交換することに加えて、組織として定期的な研修機会を提供し続けることも重要です。
特に、着任から3ヶ月・6ヶ月といった節目でのフォローアップ研修や、評価作業に合わせた評価者研修は、現場で直面した課題を整理しながらマネジメント行動を継続的にアップデートする機会として機能します。
知識のインプットだけでなく、ケーススタディやロールプレイを取り入れた参加型の設計にすることで、具体的な行動変容につながります。
まとめ
新任管理職のつまずきは、本人の能力の問題ではなく、「役割転換の難しさ」と「期待役割の曖昧さ」から生じることがほとんどです。
人事・組織として着任前後の支援を整備することが、管理職本人の成長と組織の持続的な発展につながります。
本稿に関するご質問や、管理職の育成・支援制度の設計については、セレクションアンドバリエーション株式会社までお気軽にご相談ください。
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