新設住宅着工数の減少が続く厳しい市場環境の中、同社は2022年、長年維持してきた人事制度の抜本的な改革を決断した。改革の起点となった現場の危機感、そして2025年の新社長就任時に掲げた「人的資本経営」の真意とは。
今回は、代表取締役社長執行役員の海堀直樹氏、管理本部副本部長の小櫻一男氏、管理本部人事部長の谷口正剛氏、管理本部人事部人材開発チームリーダーの吉岡和美氏に、その舞台裏とその後の変化について詳しく伺った。
この事例で分かること
- 事業環境の変化に対応した、年功序列型の人事制度の見直し
- 管理職はジョブ基準、一般職は能力基準で整理する制度設計
- 若手抜擢と戦略的人員配置を可能にする「役職・ポジション起点」の組織設計
- 制度改定後の継続的な説明会・評価者研修を通じた現場への浸透
1. 役員制度改革の背景
――まず、人事制度改革に踏み切られた背景と、当時抱えていた課題について改めてお聞かせいただけますか。
海堀 氏:
以前の人事制度は30年以上前に作られた、いわゆる年功序列型の仕組みです。 長期雇用に適した形とは言えますが、一方で「頑張っても給料や出世のスピードは変わらない」と捉えられ、特に若い世代の社員を中心に不満があることは以前から感じていました。 その頃に同様の課題感を持っていた管理本部から御社について紹介を受け、人事制度を今の時代に即した形に抜本的に改革することを決断しました。吉岡が平康社長のセミナーを受講したことがきっかけとなりましたが、本当にいいタイミングだったと思います。
小櫻 氏:
当社は事業戦略が明確にある一方で、それを実現するための効果的な組織体制づくりと人員配置が不安定な状況を抱えていました。 さらに近年では採用も厳しくなり、若手・中堅の離職も増え、社内の年齢構成も高齢化している最中でした。 だからこそ、人事制度そのものから立て直す必要性を強く感じていました。
吉岡 氏:
平康社長のセミナーを受講した際、ジョブ型とメンバーシップの調和に関するお話があり、当社にフィットすると感じました。 世の中のトレンドを押し付けるのではなく、当社の実態を踏まえ、理想と現実のバランスを取りながら一緒に考えて制度を作り上げていただける印象がありました。
2. 人事制度改革を振り返って
――今回の制度改革を振り返って、特に苦労された点はどこでしょうか。
海堀 氏:
人事制度を変えていくこと、さらにその内容については経営層の合意は比較的得やすかったように思います。経営層にも改革の必要性は共有されていたと思います。 一方で、現場の社員一人ひとりまでに運用を浸透させるのに大変苦労しました。 新制度の運用に向けて、私を含めたPJメンバー全員がほぼすべての現場・支店を回り、計20回制度説明会を実施しました。 その中で制度改革の目的とその概要について簡潔・丁寧な説明を心掛けましたが、考え方がガラッと変わることもあり、社員一人ひとりに完全に理解してもらうのはなかなか難しかったですね。
小櫻 氏:
制度設計段階においては各階層に対して前広に、かつ丁寧に説明してきたので、大きな滞りもなく作り上げられたと思います。 一方で、それを会社の隅々にまで浸透させるためには今後も粘り強く取組みを続けていかなければならないと思います。
――制度説明会の実施後も、2024年度は評価者研修・被評価者研修を、2025年度もさらに評価者研修を行うなど、継続的に浸透支援を行ってきました。また、制度導入から2年が経過して貴社内でも評価や昇給、昇格が新制度に基づく実務が本格的に動き出しているかと思います。
海堀 氏:
評価の付け方や面談の仕組み化など現場レベルではまだまだ浸透しきれていないところですが、S&V社の継続的な支援もあり、管理職以上のレベルでは意識の変化が出てきている気がします。 制度改革の一つの目玉として管理職の仕事の責任と範囲を階層ごとに明確にし、その重さに応じて処遇を決めるという仕組み、いわゆるジョブの考え方を導入しました。 その結果、年齢や過去の功労、経験値という観点ではなく、管理職の職務遂行に必要な実力があるかどうかで判断するという意識が浸透してきていると思います。 実力のある若手を上位役職に引き上げるような抜擢人事も行いやすくなりました。
吉岡 氏:
これまでは「人」に役職がついていたため、どんどん役職者が増え、それに伴い組織も細切れになっていました。 それが新制度導入により「役職・ポジション」を前提とした戦略的な組織設計が可能となったことは大きな一歩だと思います。
海堀 氏:
こうした変化は一般職層にも言えます。 管理職はジョブを意識した仕組みにしましたが、一般職層は個々の専門能力で昇進や給料を決めるという形に整理しました。 年齢給なども廃止したので、等級や役職に見合った能力発揮ができればお給料が上がる、昇進できるという意識が少しずつですが浸透してきていると思います。
――こうした社内の意識変化は、2025年に3年ぶりに実施したエンゲージメント・サーベイの結果にも表れているのではないでしょうか。
小櫻 氏:
人事制度改革前に実施したエンゲージメント・サーベイ結果に比べ、今年の結果は各項目に対する社員の「満足度」に大きな変化は見られませんでしたが、「重要度」が全体的に高まりました。 会社の取り組みに対して期待・関心をもって受け止めてくれているのだと感じており、浸透に向けた取り組みを一層加速させる必要があると思っています。
3. コンサルティングに対する評価
――先ほどのお話にもありましたが、吉岡様が弊社のセミナーを受講いただいたことがご支援のきっかけでした。これまでの弊社のコンサルティングについてどのように感じていらっしゃるでしょうか。
海堀 氏:
自社のリソースだけこれだけの変革を行うのは、体制的に厳しかったと思います。 S&V社には、第三者的な立場での的確なアドバイスだけでなく、制度の浸透まで一緒に汗をかいてくれる「伴走」をお願いできたからこそ、実現できたのだと感じています。
吉岡 氏:
コンサルティングを通じて、人事制度を構築するプロセスに関われたことは組織としても大きな財産になったと思います。 目指すべきゴールを具体的な仕組みに落とし込み、合意形成していく過程は、非常に学びが多かったです。
4. 今後の展望
――昨年新社長が就任され、新たな人事制度の本格運用も開始しました。変革期を迎えられている今、そしてこれから、会社としてどのような方向を目指されるのでしょうか。
海堀 氏:
私が社長に就任した際、中期経営計画に「人的資本経営」を掲げました。 そのきっかけは、制度改革時に実施したエンゲージメント・サーベイの結果です。 当社はこれまで、商品力や営業力に自信があり社外から高い評価を受けることも多く、会社へのエンゲージメントは高いものと思っていました。しかし実際は、商品に対するエンゲージメントは高い一方で、会社に対するエンゲージメントは低かった。 住宅着工数が減少する厳しい市場環境の中で、採用も難しくなり、若手の離職も増えている。 そんな中で、5年、10年先を見据えたとき、短期的なコストが増えてでも人へ投資する覚悟が必要だと考え、まずは「人的資本経営」をメッセージとして発信しました。
小櫻 氏:
社是である「大樹深根」には、「資源・技術・人材・資本・顧客」という5つの根の中に「人材」が明確に位置づけられています。 そういう意味では、「人的資本経営」の考え方は、創業以来わが社に受け継がれてきたものと捉えています。 ただ、こうしたメッセージは、施策として一つ一つ実行・実現していかないといけない。ここからが正念場だと感じています。
谷口 氏:
人的資本経営の考えの下、役職に関係なく社員一人ひとりが受け身ではなく「自分たちが朝日ウッドテックを動かしていくんだ」といった主体的なマインドを醸成していくことがこれからの課題だと思っています。 そのためには、継続的な評価者研修の実施や教育体系の整備も含め、小さな改善を少しずつ進めていきたいと考えています。
海堀 氏:
また、当社のパーパスやミッションも再定義したいと考えています。 特に、「なぜ朝日ウッドテックで働くのか」という部分は全社的にもう少し突っ込んで考えていきたいですね。
※所属・肩書等は 取材当時のものを記載しております。
- 企業名
- 朝日ウッドテック株式会社
- 発足
- 1952年9月16日
- 資本金
- 1,180百万円
- 社員数
- 連結804人(2025年4月30日現在)
- 事業内容
- 木質内装建材の製造・販売